こうした声の高まりよりひと足早く、生徒たちが主体となり、学校や保護者、自治体や地域の企業などと連携しながら、校則を見直す実践研究を行っていたのが、認定NPO法人カタリバによる「ルールメイカー育成プロジェクト」だ。
生徒たちがルールの本質を学び、対話的に課題解決する力を育むことを目的にしたプログラムで、2020年度の経済産業省「未来の教室実証事業」にも選ばれた。
カタリバは学校の課題に対してどのように向き合ってきたのか。また予測が困難な未来を生きる子どもたちに、いま必要とされる力とはどんなものか。カタリバの代表を務める今村久美さんに話を聞いた。
重要なのは「対話」を取り戻すこと
学校生活における慣習やルールのなかには、みんながおかしいと感じていても、「変えられない」と思い込んでしまっているものが多い。それをどのように変えていくことができるのか。カタリバスタッフが常駐し、地域と協働で高校教育改革が行われている岩手県立大槌高校の校則見直しの取り組みについて紹介しよう。
まず、大槌高校では、校則の見直しに不安を抱く学校や教員のために、何度も議論を重ねたうえで、生徒と教師からなる有志の校則検討委員会を発足。現状の校則についての問題をまとめていった。
その一方で、生徒たちは、校則を変えることが「ただのわがまま」と思われないように「生徒宣言」を作成。その宣言には、「自分で考え、自分で判断する大切さ」を重視し、全員が個人を尊重し、「毎日通いたくなる学校」を目指すという内容が織り込まれた。
カタリバが作成した「ルールメイカー育成プロジェクト」プログラムの流れ概略図
プロジェクトのスタート時には、生徒、教員、保護者など立場によって考えに差が見られたが、校則検討委員会で対話を重ねることで、それぞれの立場への理解を深め、皆が納得できる内容に改善がなされたという。
変更された主な校則は、ネクタイの着用義務の廃止、靴下の色や丈に関する規定の廃止、下校時のジャージ着用の許可などだった。さらに、ツーブロックという髪型については「就職に不利だから」という理由で禁止されてきたが、例年、生徒が就職先として選ぶ地元の町役場と隣町のホテルなどに実際に足を運んで質疑応答を行い、採用試験には影響がないことをリサーチして、許可されることになった。
今村さんはこのプロジェクトにおける自分たちの役割について次のように説明する。
「このプロジェクトの真の目的は、校則を変更することそのものではありません。重要なのは、当たり前とされてきたことを見直し、対話を通して自分たちでルールを新しくできるのだということを、生徒も教師も体感すること。その『対話のプロセス』こそが重要だと考えています」