そして4年間の任期を終えた後も、県の観光国際戦略アドバイザー(海外向けとしてはエグゼクティブ・アドバイザー)として、引き続き岐阜県のプロモーションに従事し、今年で12年になる。
その間、プロモーションに赴いた海外は、アジア諸国を皮切りに、欧州、米国、そして豪州の12カ国、21都市にのぼる。それらの国々で、同僚の県職員とともにマーケットリサーチをしたり、カウンタパートとなる人や組織を探したり、現地大使館や各種政府機関、メディアなどとの交渉や調整をして、その国や都市のニーズにあった岐阜県の魅力を伝えるさまざまなイベントを仕掛けてきた。
イベントで日本の工芸品を手に取る人々
その成果として、岐阜県の外国人宿泊者数は、2009年からコロナ禍前までの10年間で12倍に増えた。また、岐阜県産品を常時販売する現地ショップを、シンガポール、タイ、香港、スイス、フランス、スペイン、米国、豪州の8カ国で13店舗を開拓。飛騨牛などの県産品を使用する星付き級のレストランは、英国、ドイツ、オランダ、台湾など、現在、12カ国で51店舗を展開するまでになった。
このような活動を行政が行うことは、ほとんど前例がないことだった。実現できたのは、知事が民間出身である私の考えや戦略を信頼し、任せてくれたおかげだと思っている。
いまはその経験を生かして、岐阜県だけではなく、兵庫県や山形県などの観光施策のプロデューサーやアドバイザーとして、ひき続き地域の魅力を活かした新しい観光資源の国内外へのアピールや、地域での観光地づくりを行っている。
そこでもっとも大切にしているのが、「サステナブルツーリズム=持続可能な観光」の実現だ。
出発は「岐阜の宝もの認定プロジェクト」
現在、岐阜県では「日本の源流に出会える旅」をコンセプトに、持続可能性を意識したプレイスブランディングを行っている。岐阜は、京都や沖縄などと並び、サステナブルツーリズム先進県のひとつだと自負しているが、ここまで到達するには10年有余の年月が必要だった。
もともと岐阜県には、世界遺産の白川村や、1300年続く長良川の鵜飼、美濃和紙、日本三名泉である下呂温泉、そして飛騨高山などに加え、まだ観光資源にはなっていないが豊かな自然環境や里山、伝統・文化、匠の技や祭りなど、古くから現在に受け継がれてきた地域資源が数多くある。
それらこそが「岐阜県ならではの魅力=持続可能な地域資源」としてのブランド価値だとずっと考えていたが、残念ながら、それらが点として「ある」だけでは、サステナブルツーリズムにはなっていかない。