地域の物語を資産に。岐阜県で20年前からサステナブルツーリズムに取り組んできた理由 

岐阜県はどのように観光客をひきつける「サステナブルツーリズム」を実現してきたのか


海外のバイヤーに効果的だった地域の物語を語ること


この約10年間、私自身が実際に岐阜県で開拓してきたサステナブルツーリズムについては、次回から詳しく書こうと考えているが、そこへと至るきっかけとして「地域資源が観光資源になる」という確信を持つに至った過去の体験のなかから、象徴的と思われる1つを紹介したい。

もう20年ほど前になる。その頃、私はアートイベントなどのプロデューサーの仕事の傍ら、岐阜市内の小さな老舗の和紙問屋で、「美濃和紙」を活用したものづくりのリデザインとブランディングディレクターの仕事に携わっていた。

そもそも美濃和紙という素材が好きで、この業界に足を踏み入れてみると、当時、手漉き和紙職人がそれだけでは生活ができないために、年々減少していることや、原料不足、紙漉きの道具をつくる職人がどんどん減っているなどの厳しい状況を知ることとなった。

そこで、それらを食い止めるためには、もう一度、手漉き和紙の利点を活かした現代の暮らしにも役立つモノづくりを行い、流通させ、職人たちの新たな仕事を生むことだと考えた。

まず老舗の和紙問屋のCI(コーポレート・アイデンティティcorporate identity)を一新し、新たなモノづくりへのチャレンジを始めた。

伝統工芸品のリデザインで成功するためには、販路開拓も日本より先に世界で認められる必要があると問屋の社長に進言し、美濃手漉き和紙を使用して新たに開発したインテリア商材を手に、ニューヨークやパリ、フランクフルトなどの国際見本市に、無謀にも参加することにした。

そこで私が経験したのは、見本市のブースを訪れてくれた各国のバイヤーたちに高額な「メイド・イン・ジャパン」プロダクトの魅力や価値を伝える手法として最も効果的だったのは、実は「美濃和紙が生まれる地域の物語」を語るということだった。

「美濃和紙」などまったく知らない海外のバイヤーに向けて、その特質についてあれこれ説明するより、和紙が生まれるエキゾチックな日本の地方の美しい自然環境や職人の技などの物語を語ることのほうが、よほど印象に残り、モノの価値を高めるのだということを実感したのだ。

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国際見本市で紹介された、「美濃和紙が生まれる地域の物語」

そしてこのプロモーションの最後には、「ぜひ、この和紙が生まれる岐阜県に観光に来てください。そうすれば、きっとあなたもこの商品の良さを理解できるはず」で締めることも忘れなかった。

私自身も、1300年以上続く伝統工芸としての美濃和紙の魅力とは、「変わらない良さ」としての持続可能性であり、それがクオリティの担保にもつながり、モノの価値向上にもつながっていくのだということにもあらためて気づかされた。そして、その変わらなさを下支えしているのが、人間の一生から見ると膨大な時間である「千年の時」とともにある唯一無二の地域の物語だったのだ。
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文・写真=古田菜穂子

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