そういう流れで言えば、これまではアーティストとコレクターって「売ります、買います」という一時的な関係だったものが、NFTの出現で、株主優待のように、買ったことで継続的にリターンが得られるコミュニティができてくるのではないかという予感があります。オーナーコミュニティのような。
さらに、このNFTを持っている人だけが参加できるパーティーとか、買えるグッズとか、いわゆる会員権みたいなもので、「NFTを持っている人しか〇〇できない」という文脈が広がるのではないでしょうか。
オンライン上で流動的に所有権がやりとりできることになれば、NFTによって、究極的には個人がマネタイズできる世界観が実現すると思います。
──日本のアート市場にはどんな変化が起こると思いますか?
日本のアートマーケットの規模は、世界44位と言われています。グローバルにみると、残念ながらとても小さい。日本が世界で勝負できていない理由は、国内アーティストの作品を世界市場にうまく乗せることができていないからにほかなりません。
現代アートのマーケットを動かしているのは、世界の富裕層のうちでもごく一部の層であり、その力関係を変えることはほぼ不可能。マーケットの仕組み自体も、実は非常に閉鎖的です。
また、現代アートの流通には決まったルールがあって、村上隆さんも草間彌生さんも、そのルールに則って信用を積み上げていったからこそ、評価されるようになりました。ところが、日本にはこのルールを教えてくれる人がなかなかいない。だからこそ、みんな自由形になってしまっていて、誰にもポイント評価されず、値段がつきにくいというのが、今の日本の状況です。
だからこそ、アート界に世界同時に起きたこのNFTというビッグバンのタイミングは、大きなチャンスだと捉えることができます。これまで縛られていた現代アートのルールに乗せなくても、ちゃんと世界的に認められる新しいルールや市場を、日本からつくることだってできるんじゃないかと。
NFTは非常に大きな可能性を秘めていて、特にアートを軸にした新たな経済圏の創造を目指している僕らのような会社からしても、次のインターネットのように無限のポテンシャルがあるんじゃないかと思っているんです。
スタートラインが世界同時という意味では、日本のアニメや漫画などのソフトパワーやコンテンツ力を、世界のアートマーケットの主流にすることだって不可能ではないはず。
そのためにも、まずは今の段階で、日本人アーティストがどう存在感を出せるかが超大事。Beepleに奪われてちゃダメだぞって。だからこそ僕たちは、今回、土佐尚子という世界的評価の高いメディアアーティストの新作をNFTとしてオークションを実施することにしたわけです。
土佐尚子の映像作品「Sound of Ikebana:音のいけばな」のイメージ
今回出品したのは、2000分の1秒で撮影された30秒の映像作品「Sound of Ikebana:音のいけばな」。「命輝く未来社会」をテーマに、コロナ禍の大変な状況の中で生まれた母子、そして医療従事者への感謝と支援を行うため、赤ちゃんの産声をいけばな作品としたものです。
こうした「モノがない」作品は、NFTとの相性がいい。映像作品はコピーガードができないと言う課題がこれまであったのですが、NFTによって動画ファイル自体に資産性がつくれるようになったことは大きい変化です。
NFTという新しいアート文脈のトレンドを日本からつくっていく──。今回のNFTには、アート界を大転換させる可能性があると確信しています。
よしだ・ゆうや◎HARTi代表取締役社長。書道家として活動したのち、10代からフランス語のオンライン塾を起業し、事業譲渡。英国留学や世界40カ国を巡ったのち、2019年にHARTiを起業し、現職に就く。ウェルビーイングな経済圏の実現に向け、現代アーティストのプロダクション事業を展開している。