──アートをNFT化することは、誰にとってどんなメリットがあるのでしょうか?
まず前提を説明したいのですが、アートにお金を払う人たちの属性には、大きく分けて2つあると思っています。
1つはアートそのものを愉しむために買う人たち。インテリアとして部屋に飾って鑑賞したりすることが主目的です。そしてもう1つが、「資産」としてアートを買う人たち。NFTと相性がよく、可能性を見出しやすいのはこちらの人たちです。
特に海外の、資産としてアートを買う人たちは、作品を家に置いたり飾ったりしないことがほとんど。現物を見ずに購入することも多く、オークションで落札したら、そのままアートは倉庫に直行です。
こうした資産としてアートを買う人たちのなかには、「なんなら現物はなくてもいい」という層が一定数いるのも事実。現物があると倉庫代もかかるし、セキュリティも必要、外国のオークションで落札したのなら配送料も高額になる。モノがあることのリスクやコストがバカにならないからです。
重要なのは、アートという「モノ」そのものよりも、それを価値づけている「コンセプト」のほうだということ。例えば、最初の現代アートと言われているマルセル・デュシャンの『泉』にしても、「便器」に価値があるわけではなくて、「最初の現代アート」というコンセプトを所有した、その概念を買ったことにこそ価値がある。その価値を担保するために、モノが必要だったという考え方です。
マルセル・デュシャンの『泉』(Dan Kitwood/Getty Images)
今回のNFTの何が革新的かといえば、この「概念を所有する」ことがモノを通さなくても担保できるようになったという点が、一番大きいのではないでしょうか。株と一緒で、概念の価値さえあれば、モノなしに流通させてもいいよねということこそ、NFTが見せた可能性であり、アート×NFTの本質だと僕は思っています。
──NFTがデジタル資産の所有を証明するものだとすると、アートに限らず、動画や音源、などにも使えることになりますね。つい先日も、ジャック・ドーシー氏の初ツイートNFTが291万5835ドル(約3億円)で落札されたことがニュースになりました。
NFTはこれからすごくいろいろな使われ方をしていくと思います。「唯一無二のタグがついたデジタル資産」という意味では、作品でなくても、それこそ電子キーとか会員権のような使い方も可能になってくるかもしれません。
ジャック・ドーシー氏の初ツイートNFTは、モノがあるわけではないけれど、大事なのはそれを「誰がいくらで買った」というストーリーが世界中に広がっていくことのほうかもしれません。アートを投資として買う人たちにとっては、これが1つの大きな宣伝効果になったりするので。
前澤さんがバスキアを高額で落札した理由も同じなのかなと勝手に推測しているんですけど、起業家の方たちがアートを高額で購入することのひとつの大きな意味は、グローバルセレブのコミュニティに入ることができること。海外で自分の信用を構築しようと思ったらすごく手間も時間もかかるけれど、あれだけの値段でアートを買うことができる人物であり、教養人で芸術家を応援しているという文脈もつくれるわけですから。
さらに、「バスキアが好き」という感性によってビジネス相手との相性を見ることができるのもアートのいいところですね。そのあたりは、ワインにも似ているかもしれません。