「漫画で日本語を学んだ」スコットランド人青年に聞く、日本漫画8選


エロスも恐怖も楽しめる、贅沢な「魔女っ子」もの
入江亜季『乱と灰色の世界』(全6巻、KADOKAWA)

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“魔法でピカピカします”(ウィルソン氏)。スニーカーを履くと美しい魔女に変身する、小学生の魔法少女・乱を始めとした魔法使い一族の物語。子どもの頃にアニメで観て憧れた魔法の世界を、さらにパワーアップさせた形で次から次へと見せてくれる。特に何度も登場する魔法使いたちの食事シーンはたまらなく楽しい。さらに、エロスと悲しみを伴う恋愛、邪悪で不気味な敵「骸虫」との闘いなど、大人だからこそ楽しめる要素も満載。大人が大人の役割を引き受け、子どもが子どもらしくいられる世界を描いているのもいい。

今の仕事に、誇りを持てているか?
岩岡ヒサエ『土星マンション』(全7巻、小学館)

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“こんなおっとりした風に騒ぎ過ぎずに社会の不平等に触れる物語があるとは読むまで思わなかったです”(ウィルソン氏)。地球全体が自然保護区域となった近未来。人々は、上空3万5000メートルに浮かぶ、土星の輪の形をした巨大なマンションの「上層」と「下層」に住み分け、格差の激しい暮らしをしていた。下層の住人・ミツが、マンションの窓拭きという危険な仕事をする中で、仲間だけでなく上層の住人にも影響を与え、静かに世界を変えていく。格差をどう越えるのか、仕事のやりがいや誇りとは何か......やわらかなSFの中に、重い問いとその答えが潜んでいる。

75歳と18歳は「友だち」になれる!
鶴谷香央理『メタモルフォーゼの縁側』(全5巻、KADOKAWA)

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“漫画への熱心に感動します”(ウィルソン氏)。突然ボーイズ・ラブ(BL)漫画にハマった75歳の雪(率直で行動力あり)と、雪がBLを買いに来た書店でバイトをする高校生のうらら(繊細で熟考型)。58歳差の2人が、BLという共通の趣味をきっかけに手探りで友情を深め、共に新しい世界に踏み出していく。「好きなものを持つことの幸せ」、そして『スキップとローファー』でも言及した「タイプの違う人と仲良くなること」という最近の漫画の、そして現代社会の重要なテーマが、やさしく、あたたかな形で表現されている。

あの宮崎アニメの先にある、切実な課題
宮崎駿『風の谷のナウシカ』(全7巻、徳間書店)

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“読んだのはずっと前ですが、まだとても好きです”(ウィルソン氏)。巨大産業文明が崩壊した未来の世界で、自国の人間、敵国の人間、人間以外の生き物、自然......すべてを救うため命をかけて挑む姫・ナウシカの姿を描く。劇場版アニメでベースとなるのはほぼ2巻までのストーリー。全7巻からなる漫画版にはさらなる壮大な世界が広がり、凄惨な戦いや死、差別、人間の愚かしさも映画以上にシビアに描かれている。「世界の宮崎駿」の頭の中がそのまま紙に刻まれたような、精密かつ生々しい絵も圧巻。連載終了から26年経つが、ここで示される課題はより切実なものとして我々に迫ってくる。

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門倉紫麻◎フリーライター。ローンチ当初のアマゾン ジャパンでエディターを務めた履歴を持つ。「コミック」部門の売り上げ増に注力する中で多くの作品に出会った経験から、メディアを通じて日本漫画の魅力を発信したいと思うようになった。現在は漫画に関する寄稿を諸媒体へ旺盛に行うほか、文化庁メディア芸術祭など漫画賞の審査員経験も多い、知る人ぞ知る「漫画ライター」である。著書に「週刊少年ジャンプ」作家へのインタビュー集『マンガ脳の鍛えかた』(集英社刊)、2.5次元ミュージカルの作り手へのインタビュー集『2.5次元のトップランナーたち 松田 誠 茅野イサム 和田俊輔 佐藤流司』(集英社刊)、フランス人漫画愛好家のための漫画用語集『Le Japonais Du Manga』(Misato RAILLARDとの共著、ASSIMIL<フランス>刊)などがある。

文=門倉紫麻 編集=石井節子

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