門倉:そう、「仲間」になってしまいますよね。一瞬で人と人との距離をなくしてしまう、漫画の力を感じました。
私とウィルソンさんにとっては、日本の漫画『ラヴ・バズ』がその役を果たしてくれたわけですが、こういうことがエンターテイメントやカルチャーの様々なジャンルで、それを愛する人たちの間で起きているのだと考えるとワクワクしてきます。
スコットランドの物語について
門倉:なのできっと、ウィルソンさんの親しんできたイギリスやスコットランドの物語の中にも、私だけでなく日本の誰かが読むことで「仲間だ」と感じるようなものがあると思います。小説、映画、コミック、演劇などなんでもいいので、おすすめのものを教えてください。
ウィルソン:えーと、何がいいでしょうか。テレビをあんまり観なくて、長い間日本語の小説や漫画を読んでいたので自分の国の物語がよく分からなくなってきました!
スコットランドの作品なら、日本で買えるかどうかさえ知らなくて、ほぼ知られていない『The Angel’s Share』(注:邦題『天使の分け前』)という映画がお勧めです。そして、英語を話したり読んだり出来る方には、スコッツ語の詩や物語をぜひ少し読んでみることをお勧めしたいです。言葉が難しいですが、美しいと思います。
イギリスの物語ならデイヴィッド・アーモンドという作家の小説が全部お勧めです。十代の頃に読んだ不思議で素晴らしい物語です。ケビン・クロスリー=ホランドの『ふたりのアーサー』も、大好きでした。主人公の人生も経験も全くちがうのに、何故か凄い共感しました。日本語訳もありそうですので、是非読んでみてください。
ケビン・クロスリー=ホランド『ふたりのアーサー』
門倉:恥ずかしながらどれも知りませんでした。ぜひ観て、読んでみたいと思います。
漫画を読むのは楽しいことですが、漫画について語るのも、とても楽しいことですよね。また漫画を通していろいろなお話をさせてください。これからもよろしくお願いします!
ウィルソン:よろしくお願いします!
本当に門倉さんのいう通りですね。僕も、漫画について話すことがとっても楽しいです。そして、漫画のキャラクター、舞台、展開などは、いわゆるフィクションの要素ですが、現実の世界に生きる読者に間違いなく影響を与える物語について話すことは大事なことだとも言えると思います。
あくまでも自分自身の意見を話したにすぎませんが、漫画について色々話させていただいて誠にありがとうございます。誰か一人だけでもこのインタビューをきっかけに『ラヴ・バズ』のような強い人間性を持つ漫画を読んでみたくなったら幸いと存じ上げます。そして、これからもどんな物語が日本の漫画家たちに描かれるか、お楽しみです。面白い漫画をいっぱい読ませていただければ嬉しいです。
全3回を通してウィルソン氏が紹介してきた漫画は、日常的に漫画を摂取する習慣がなければ出会わないものも多いだろう。
ウィルソン氏の言葉に何か惹かれるものがあったなら、まずは1冊、手にとってみてほしい。どれだけ奥深い世界が広がっていても、ほとんどが1000円以下で気軽に試せるのも漫画の素敵なところだ。
今手に取ったその漫画が、あなただけの、大切な物語になるかもしれない。そして同じ作品が、遠い国で暮らす誰かの心をあたためているのだということに、思いを馳せてみてほしい。日本漫画の豊かさを、体感できるはずだ。