漫画市場の中心的存在は、社会現象と化した『鬼滅の刃』をはじめとする上質な少年漫画の大ヒット作であることは間違いない。だが日本漫画を世界的なビジネスとして成り立たせているのは、それら大ヒット作だけではない。冒頭の編集者の言葉が、それをよく表している。
では遠い国にいる漫画読者は、どのように「豊かな海」の中から自分にぴたりと合う漫画と出会い、その何を愛しているのか──。
2019年に福岡で行われた、言語愛好家が世界各地から集う「ポリグロット・カンファレンス」で、ある漫画読者に出会った。スコットランド在住のグレゴール・ウィルソン氏だ。彼の漫画への深い愛情に触れたことで、この連載企画は生まれた。
今回のメールインタビューにウィルソン氏は、「漫画も勉強道具として活用した」という日本語テキストで答えてくれた。その美しい日本語表現を、ほぼそのままの形で掲載する。日本以外の場所にいる漫画読者に具体的、私的な体験を語ってもらうことで、日本漫画の豊かさを再発見していきたい。
第3回では、前回まで語ってきた志村貴子作品以外にウィルソン氏が愛読する日本漫画を8作紹介する。文=門倉紫麻(フリーライター)
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グレゴール・ウィルソン氏|カリグラフィー作家。1995年生まれ。スコットランド エディンバラ出身・在住。
日本の漫画は「どんな話題でもどんなテーマでも」描く
門倉:日本の漫画全般について、何かお話しいただけることがあればお願いします。
ウィルソン:まず、日本の漫画家さんに、「素敵な話を読ませていただいて、ありがとうございます」と言いたいです。いつも漫画の幅の広さに感心しています。どんな話題でもどんなテーマでも漫画があって今でもビックリします。
その一方、英語に訳される漫画がとても多くて、近年幅もだいぶ広くなってきましたが、『ラヴ・バズ』のような僕が本当に読みたい物語はまだ少ないです。どうしても友人と知り合いの皆さんにおすすめしたいのですが、英訳がなくてそれができないことは残念です。