谷本:パナソニックは、企業として現在、どこに課題・問題があるのでしょう。
馬場:創業者の言葉に「松下電器は人をつくるところです。あわせて電気器具もつくっております」とあります。でも現在のパナソニックは必ずしも、その言葉を実践していると、自信を持って言えない現実があると思っています。偉大な会社は優れた理念があります。理念が社会とズレてくるのではなく、理念を実践する私たちが理念とズレてくることから問題は生まれてくると思います。
コロナ禍で危機に直面している今だからこそ、創業当初からの理念を大切にし、どのように有言実行の形に戻していけば良いのかを企業内で問い掛け、再認識することが大切なのではないでしょうか?私は今この時期だからこそ、理念に則した企業としてのあるべき立ち位置の再認識と、その実践が必要だと思っています。その点、パナソニックは原理原則となる基本がしっかりあるので、やれないことが何なのかを探り、それを見直す作業が楽である点で私は幸運だと思っています。
谷本:では、その企業変革を推進していく人材についてのご意見を伺いたいです。今ここにいらっしゃるみなさんは、新卒からずっと今の企業で働く、いわゆるプロパーではありません。外から来た方だからこそ、そのイノベーティブな推進をなし得たのではないですか?そんなみなさんのような方を育成するに、企業は何をすればよいのでしょうか。
楢﨑:損保ジャパンは、日本初の火災保険会社である東京火災を源流とした創業約130年の歴史を持つ組織です。もともとは江戸時代に、ハッピを着た火消しが金具で家屋を壊して火事が広がるのを防ぐという、現在の消防士と同じ使命感を持ち、基本は「顧客に寄り添って顧客のリスクに身を張って対処する」という理念の下に業を起こしたという経緯があるわけです。ですから、130年前にハッピを身に着けた社員の絵姿を見ただけで、何かジンと来るものがあるのですよね。
時代が変わっても、私たち保険会社の使命は顧客に寄り添って顧客のリスクに対処するということに変わりはないわけですが、では実際にそれができているのか?多分、仕組みとしてはやっているのでしょうが、そこに果たして社員一人一人の真摯な思いが詰まっているのかという疑問が残ることは否めません。
たとえば、保険会社として安心・安全・健康を提供するテーマパークをつくるなど、現在の時代に則してやらなければならないことは山ほどあるわけです。しかし一つの企業内で長い間仕事をし続けていると、つい「やらされ仕事」に従事してしまい、何が本質なのかを考える力が徐々に取り除かれて、自らが考えて「ことを起こす」能力を発揮できなくなる傾向が増えてきます。
私は、現在いる約25,000名の従業員が全員「創業時の基本精神を振り返り、初心に戻る作業」が必要だと思っています。たとえば、エクセルに触れることができない人は、現代を生きるビジネスパーソンとしては失格ですし、新しい時代に生き残れるビジネスパーソンや組織づくりを基に人材育成をして行く必要があると考えています。要するに今こそ社員全体がマインドセットを変えて、頭の切り替えをする必要があると思います。
谷本:現在の大企業の在り方を振り返ってみると、すでにあるもののオペレーションを得意とする人材が多すぎる、つまりは、新しいことを生み出す人が少ないという印象があると思うのですが、その点については如何でしょうか?
三苫:まず、現在働いている多くの社員には既存の活動をしっかりと継続してもらう。そして、クリエイティブな人材は外部から迎え入れるようにする。さらに、急激にではなく、今の仕組みを一歩、二歩と少しずつ前進させるマインドをつくる。特に、マネジメントの意識改革が大切になってくると思います。
また、先ほども申し上げた通り、基本に戻って、事業の発想を顧客サービスに反映させることも大切な要素です。遠回りに聞こえるかもしれませんが、私は今ここで次のステップへのマインド設定をして行く必要があると感じています。
馬場:企業の理念は、常に時代の流れに対応し、若くあり続けることに重きを置く必要があると思います。既存の成功モデルは既に「大人化」してしまっていて、新しい発見がない。だから、知り過ぎたことを改めて、好奇心旺盛で冒険を恐れない「子供化」する意識変革作業が必要になってくるわけです。つまり、これは世の中の常で、失うものが無い方が断然強いということを示していると思うんです。企業内のマインドセットを常に若く保つためには、既成概念にとらわれない若いマインド思考を持っている人を外部から引き入れるようにしたら良いと私は思っています。