これからの日本経済発展のために早急に必要とされる変革を、どのように舵取りしていくべきなのか。
大企業の若手・中堅社員を中心とした約50の企業内有志団体が集う実践コミュニティ「ONE JAPAN」が年に1度開催する「ONE JAPAN CONFERENCE 2020」の既存事業の変革セッションにて、日本のコーポレートトランスフォーメーションの旗手、SOMPOホールディングスグループ CDO執行役常務の楢﨑浩一氏、パナソニック コーポレートイノベーション担当参与の馬場渉氏、日本郵便 執行役員 郵便・物流業務統括部長の三苫倫理氏に聞いた。
谷本有香(以下、谷本):まず、企業や業種によって解は様々でしょうが、なぜ今、企業や事業の変革が求められているのか。日本企業から「イノベーション」を、といいますが、その定義についてどのようにご理解されているのか伺わせて下さい。
楢﨑浩一(以下、楢﨑):答えは単純で簡単です。何故なら、この問題はただ単に「理想」や「理念」ではなく、変革を手掛けなければ死に絶えるという企業の死活問題に関わっているからです。会社全体をパソコンというハードウェアだとすると、その中身のOSは日々更新されていかなければならないという状況の中、初期のセットアップでは既に対応できないジレンマがあるわけです。そこには切羽詰まった「新陳代謝」が不可欠という現状があることを、企業のみならず、社会全体が今まさに認識しなければならない状況なのだと思います。
三苫倫理(以下、三苫):私も楢﨑さんと全く同じ考えです。特に物流事業(ロジスティクス)は、人海戦術で成り立つ市場です。しかし、働き手の数が減少している現在の労働市場の中で、常識的な改革だけでは生き残りができないというのがロジスティクス業界の現状なんです。
馬場渉(以下、馬場):イノベーションは進化発展し続けるための代謝だと理解しています。企業が生存競争としてイノベーションを起こす大切さは言うまでもありませんが、より重要なのは社会やくらしそのものが進化発展し続けることです。くらしを革新するためには、サービスや事業を提供する企業や社会が代謝によって革新し続けなければならない。つまりイノベーションを推進するためには社会、企業、そして働き手である一人一人がグロース・マインド・セット(Growth Mind Set)を持つ必要があるということだと思っています。
谷本:時代に合わせて進化しなければ、事業は生き残れない。これまでその方策を、オープンイノベーション、新規事業などを通じて企業は変革を促してきました。しかし、新規事業ではなく、既存事業から、どのように変革を推進していくのでしょうか。
馬場:まだ誰も手掛けていない、試行錯誤でこれから先の成長を目指す「新規事業」とは異なり、当たり前となった既存産業を現在の「第三次産業革命型」から「第四次産業革命型」へ書き換える必要があり、社会全体が飛躍的に生産性を高めるという意識を持つことが不可欠だと思っています。そして、これは郵政、保険、自動車、食など、全ての基本的な私たちのくらしを支える既存事業にあてはまる課題ではないでしょうか。
楢﨑:私の場合は「スタートアップ事業」から、大企業が展開する「既存事業」の推進業務に出戻りしたような感じなのですが、特に「保険業界」は、長期的な展望を持って推し進めていかなければならない事業に関わっていますので、今日明日に新規事業が生まれて来るということではありません。
現在、損害保険業界に従事する労働人口は90,000人を超え、代理店などを含めると、さらに多くの人たちがこの業界に関わっているわけです。そのような大所帯を一気に覆し、変革するのはほとんど不可能ですし、また必要のないことだと思っています。
それよりも、私共は「現在ある事業の根本的な見直し」、また「旧態依然の事業に新しい息吹を与える試み」、つまり「温故知新」を念頭においた改革意識を持って、現在の事業を展開しようとする試みに取り組んでいます。