ビジネス

2020.11.30 10:00

なぜ大企業の「既存事業」からイノベーションは起きないのか?

ONE JAPAN CONFERENCE 2020 より


谷本:では、コロナ禍はイノベーションを推進する起爆剤になり得るのでしょうか。また、そのインパクトについては、どのようにお考えですか?
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三苫:コロナ禍では「ソーシャル・ディスタンス」を要求されますが、私どもはその真逆をいく、典型的な「アンソーシャル・ディスタンス」事業なんです。つまり、コロナ禍以前は、対面で配達物を受け取るのが当たり前だった顧客が、コロナ禍以降は対面では受け取りたくないという意識に移行していき、顧客を含めて、社会全体の価値観が大きく変化してきているわけです。

そうした急激に変化する社会的な外圧に、どのように対応していったらよいのかを考え、試行錯誤で挑戦することが、ただ単にきれいごとではなく、生き残りを目指す、眼前に差し迫ったイノベーションだと考えています。
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馬場:シリコンバレーの友人たちが最近多く話題に上げるのがコロナによってはっきりと気付かされた長期リスクの現実化です。感染症は突然来たわけではなく自然と社会の変化から必ず起こると警告されていました。気候変動やサイバーアタック、見て見ぬふりをしていた長期リスクに対して私たちの生活を一変させる破壊を目の当たりにしたことで、多くのイノベーションがこれらの長期リスクへの対処に向けられるだろうというものです。

危機が起こってから復興的対処をするのはクライシスマネジメントですが、予見される危機に備えて対処するのはリスクマネジメントです。現在の日本の大企業、ひいては、日本社会にはギリギリのところで痛みを感じなければ対応できないという社会システムの脆弱さを感じています。

必ず起こると言われるコロナ以外の長期リスクを今一度認識し、そこへの対応力を高める方向でイノベーションが起こってくるのではないでしょうか。 

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楢﨑:サプライチェーンでも同じことが言えると思います。今回のコロナ禍でも、国民の命を守るために、たとえ一時的ではあっても、緊急事態宣言という形で今までの社会システムを止めなければならなかった。しかし、経済生活は動かしていかなければならないわけで、サイバー攻撃を含め、今回のコロナ禍で私たちはサプライチェーンの脆弱性を再認識したわけです。

保険会社、パナソニック、郵政、航空産業などだけではなく、社会全体で私たちが今までノーマルと定義していた基本的な認識を改め、将来に向けて改良し、解決しなければならない問題が鮮明に浮き彫りにされたのではないかと思っています。

谷本:本来、または、今までは、既存事業は「守りの事業」という概念があったと思いますが、これから先はその意識を覆し、攻めの事業に展開して行かなければならないわけですよね。では、既存事業の改革をどのように取り仕切っていけばよいのでしょうか?

三苫:歴史と伝統にどっぷりと漬かっている日本郵便は、もともと何かを変えることが最も苦手で、変化には脆弱な体質を持っている企業です。その企業体質全体をどんなに変えようと思っても、それこそ歴史と伝統の重みの中で、なかなか小回りが利いた動きが取れないという現実があるわけです。ですから、自分たちが内部から変化を引き起こすには限界があることを認識して、オープンイノベーションを推進していく必要があると思っています。

楢﨑:確かに、オープンイノベーションは絶対に必要だと思います。たとえば、今までの企業内のお金の動かし方や使い方を変えて、潜在的にはびこっている既成の価値観を変化させる必要があるわけです。

でも、その問題は恐らく今まで十分に言い尽くされて来ていることで、ではどうやって?という課題に挑戦しなければならない。そして私は、それは一にも二にも経営トップ陣の腹のくくり方次第だと思っています。つまり、「会社が救われるなら、やってみようぜ」というリスクをポジティブにとらえ、果敢に挑戦することができるかどうか。現在の経営トップ陣の覚悟の持ち方に掛かっているのだと思います。

馬場:そもそも、パナソニックは仕組みで勝っている組織だというのはその通りです。その仕組みを疑わずに、その上で努力したり工夫したりするのは正しい選択ではないんです。何よりも人事上、会計上の根本的な仕組みを変える必要があって、現在ある日本の大企業はそのこと自体を認識すべきだと思います。

まずは、今までの仕組みを疑い、その仕組みを修正し、改良する。その変化を牽引する具体的な事業が必要でしょう。そして、先祖帰りも必要です。果たして自分たちは創業時に掲げられた起業目的を果たしているのか、社会的な約束をしっかり果たしているのかを自らに問いかける作業が重要になってきていると思います。

そして創業時の起業目的を、現在の社会の中で実現しているかを問い掛ける意識を通し、足元をしっかり見直す。そして、顧客サービスに役立てるようにする。とにかく、ただ単に新しいものを取り入れるだけではなく、創業時の起業目標を見直し、今勝っているのは、これまでの仕組みで勝っているだけなのだと、謙虚に認識する必要があると思っています。
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文=賀陽輝代 グラフィックレコード=三瓶聖奈

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