コクヨ株式会社 ネットステーショナリーグループリーダー 中井信彦氏
──現在の『しゅくだいやる気ペン』とは異なるコンセプトですが、「見守りツール」のままでは進まなかった、ということですね。
親世代を対象にアンケートを実施してみたのですが、想像よりも商品が刺さらなかったんです。
「保護者は共働きなどの理由で子どもを見守れていないのでは」というアイデアからスタートしていましたが、当事者の意見を聞くと、実はそうでもない。「我が家はそこそこ会話をしていますよ」という声もありました。
つまり、一見はニーズがありそうでしたが、社会課題を表面からみて都合のいいように解釈していたに過ぎなかったということです。しかも、それが開発から1年も経ってわかった。プロジェクトとしては、この段階で一度ストップせざるを得ませんでした。
振り返って考えると、僕らには「誰がこの商品を手にとって、どのように幸せになるのか」といった顧客体験のイメージがなかったんですね。僕らは会社という閉じられた世界で、求められていないものを「技術的に可能だから」作り、実際の生活者とかけ離れたところで盛り上がっていた。それに気がついて、恥ずかしい思いでした。
「子どもたちのリアクション」が軌道修正のきっかけに
──そこから現在のコンセプトへ至るには、どのような転換があったのでしょうか。
まずは「商品化できるか、できないか」という問いを止めました。「その商品で、どのような顧客を幸せにできるのだろうか」を考えてみよう、と。
もともとハード開発が先にあって、「そこに載せるコンテンツは後からどうにかなる」という進め方でした。しかし、ユーザーとの一番の接点は、本来はコンテンツです。そこで、まず仮のコンテンツを作ってみることにしました。紙に「こんなことをやってみたい」と描いて、身近にいる子どもを持つ保護者数人に見せて、意見を聞いてみるんです。それだけで、手応えの有無が感じられました。
中でも評判がよかったのが、「ペンが光る」という機能。それを元に、再スタートの段階で、プロトタイプとして光るペンだけを作ってみました。それを子どもに持たせると「書いたら光った!」と、すごくポジティブな反応だったんですよね。
そこで、「光るペンで書くと、スマホのアプリにデータが渡り、画面上で穴掘りロボットが進む」といった、アプリと連携するダミーのプロダクトを次に作りました。実際にはデータが渡ったように見せて、ロボットは僕が手動で進ませていたのですが(笑)。でも、それが子どもたちにウケたんです。
利用者が幸せを感じている瞬間。それを目の当たりにできたのが、軌道修正のきっかけですね。ここから「子ども自身が積極的にやりたくなるものを作る」という考え方にスイッチしました。開発2年目の初期のことです。