──あらためて、ターゲットを保護者から子どもへと転換した、と。
自信はなくとも「子どもたちを幸せにするものができそうだ」という手応えは感じていました。
しかし、ここでもう一つ、壁にぶつかって。幸せにするべき子どもたちが、どんなときに、どのようにペンを使うのかを知らなかったんです。
例えば、宿題。学校にもデジタルガジェットが導入される現在、どのくらい「手で書く」宿題があるのかを知らずに企画を続けていたんですね。そこで、あらためて小学生の生活を調べてみることにしました。
──今の小学生の宿題、たしかに想像がつきません。
まずは、協力してくれる保護者に、子どもの勉強シーンをスマホで録画してもらいました。すると、子どもは机に向かうものの、すぐに集中力が切れてしまい、えんぴつを並べたり、キャップを吹いて遊んだりと、宿題が全く手についていないようでした。このあたりは今も昔も変わらないかもしれませんね(笑)。そのように、リアルなインサイト調査を約50ケース実施し、いくつかのご家庭ではヒアリングも実施しました。
そこで見えてきたのは、勉強を通じて、保護者もコミュニケーションをしたいと思っていることです。保護者は子どもの学習態度が悪いと、ついガミガミと言ってしまうもの。背景には、勉強を通した子どもとのコミュニケーションをなくしたくない気持ちもある。「どうにか子どもを勉強に取り組ませたいし、そこに自分も関わりたい」という思いが強いとわかりました。
「子どもが楽しく家庭学習できればいい」と考えていたのですが、これはそうじゃない。製品開発の軸にするべきは「親子の関係」だと感じました。子どもが努力した結果を、保護者がほめてあげることができて、子どもがさらに努力する。そのサイクルを回すことが本質なのだと気がつかされたのです。
「会議のテーブル」ではなく、ユーザーからの「生の声」にこだわった
──その後はどのように開発を進めていきましたか。
向き合うべき方針が見えた上で、さらに保護者や利用者のことを知るための企画を立ち上げることにしました。その一つが、糸井重里さん率いる「ほぼ日」が主催する「生活のたのしみ展」への出展です。コクヨブースの一角に手作りのプロトタイプを展示して、来場者の方とコミュニケーションをしてみました。
また、同じタイミングでクラウドファンディングも発表したんです。目的は開発資金を募るのではなく、ユーザーの感想集めや接点づくりです。「こんなコンセプトの商品を作ろうと思っていますが、みなさんの生の声が必要です。そこで企画会議を開催しますから、ぜひ参加してください」というリターンを設定しました。
自分の知人や社員といった身近なサンプルではなく、よりユーザーの裾野を広げてリアクションをもらうフェーズに切り替えたわけです。