──多くの「生の声」を得ることに集中されたのですね。
商品開発は、どうしても「モノ」が主役になりがちです。しかし、考えの中心に置くべきは「人」であり、そこへアプローチしていくべきだったのです。
まずは身近な人にプロダクトを触ってもらい、少しずつ価値を深堀りしながら、ユーザーの裾野を広げていく。そして、僕らが作りたい「顧客の幸せ」を求めてくれる人へ、いかに多くリーチしていくか。それを繰り返していきました。
──広く意見を聞くとなると、相違や衝突もあったのでは?
迷ったときにはMVP(Minimum Viable Product)という手法に立ち返りました。最小の機能で試作品を作り、身の回りの当事者5人ほどに聞いていくんです。その都度、手応えを確認します。
とにかく当事者を交えることです。ここで会社に留まって、会議のテーブルについたおじさんたちだけで決めつけると、プロダクトがブレてしまいます。たとえ、経営層から意見されたとしても、あくまで意見の一つにすぎません。開発チームは、ひたすらユーザーの声を聞こうと決めていました。
この方針をとって、本当に良かったと感じる瞬間がありました。クラウドファンディング後の体験会の出来事です。「伝え方を間違えてしまうと、この商品は勘違いされる」とわかった。それが最大の転換点になりました。
「ドラえもんのひみつ道具ではありません」
──勘違い、ですか。
クラウドファンディングの企画会議を開催する頃には『しゅくだいやる気ペン』という名前は決まっており、20名の親子に参加していただくことにしました。「子ども会議」と「大人会議」にグループを分けてプロトタイプを体験していただいた後に、子どもには「どのような機能があったらうれしいか」を描いてもらいました。
一方の「大人会議」では製品への意見をお聞きしました。「これは『しゅくだいやる気ペン』という名前です」と紹介すると、「手に持つだけで子どものやる気が生まれるペンだ」と勘違いされてしまったんです。つまり、親がガミガミ言わなくても、まるでドラえもんのひみつ道具のように、子どもが勝手にやる気になるペンなんですよね、と。
もちろん、そうではありません。製品の軸は「親子の関係」であり、それを良好にサポートするための製品を目指していたのですから。大人会議では、あらためてコンセプトを説明して、ご理解をいただきました。ただ、「子どもが勝手にやる気になるペン」として感じさせてしまったのは、僕らの伝え方に問題があったのだとも気づけました。