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朝日新聞編集委員(朝鮮半島、米朝・日米関係担当)

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かつて衝撃的な著書『アメリカが中国を選ぶ日』を発表したオーストラリアの元国防副次官。もはや中国抜きでは成り立たなくなった世界について、厳しい未来を語る。安全保障分野のトップジャーナリスト、牧野愛博氏によるオーストラリアレポート第4弾。


私は昨年11月、オーストラリアに出張する前、日本の知識人たちに「豪州で一番のリアリストは誰だろうか」と尋ねて回った。私の頭のなかに「リアリストこそ、現実をよく知る人物」というひとつの仮定があったからだ。

専門家なら誰もが知る言葉のひとつに、「外交や安全保障は、やればやるほどリアリストになる」という文句がある。安全保障と外交の世界に平等という言葉はない。国連安全保障理事国や核拡散防止条約(NPT)体制など、全く不平等な取り決めだが、「戦後秩序」「パワーゲーム」などの言葉の下で、受け入れなければならない。
外交や安全保障は、こうした彼我の力の差や国際関係を冷静に客観的に分析したうえで、議論しなければ、単なる理想論や自己満足な議論に終わってしまう。かつて、戦前の日本の軍部がスローガンとして使った「神州不滅」、社会党が展開した「非武装中立論」などもそのひとつだろう。

私の問いに対し、日本の知識人たちが一様に推薦してくれたのが、豪州国立大(ANU)のヒュー・ホワイト教授だった。ただ、知識人たちは「ちょっと主張が極端なのがたまに傷なんだけど」と付け加えるのも忘れなかった。


ヒュー・ホワイト教授

ホワイト教授は、オーストラリアの首相上級顧問や国防副次官などを務めただけあって、誰よりも豪州を取り巻く安全保障の現実に精通した人物だ。同時に、教授は2012年に発表した著作『アメリカが中国を選ぶ日』で、「中国が巨大になればなるほど、米国は日本を支えるために、中国との良好な関係を犠牲にするわけにはいかなくなる」など、日本人には苦々しいと言える論理を展開した。2019年には、豪州が核武装について議論する必要性について問題提起をして、関係者らを驚かせた。豪州にとって、同盟国の米国と、最大の貿易相手国である中国との関係を両立させるのは簡単ではない。教授の過激な主張は、この問題について悩み抜いた結果だとも言える。

過激な主張から想像し、どんなに気むずかしい人が出てくるかと緊張しながら、私はキャンベラにあるANUの研究室のドアをノックした。出迎えてくれたホワイト教授は、私の想像とは全く逆で、非常に温厚な紳士だった。彼は2時間近く、私の拙い質問に対して熱心にそして丁寧に答えてくれた。

文=牧野愛博

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