一方のビストロでは、ブラス氏の曽祖母が作っていたというオリジナルに近いレシピで提供する。切り分けた胸肉ではなく、やや小さめの鶏の胸肉の塊を使い、こちらも煮込むのではなく、ローストし上からクリームソースをかけている。サイドには、ニンニクのコンフィ、ブレス鶏のガラの出汁で炊いたピラフがつく。
ビストロで提供される「ブレス鶏のクリーム煮」は、オリジナルのレシピに近い
実はどちらのソースも三つ星の厨房で作っていて、シャンパンとフォワグラが入ると、三ツ星のソースになる。ビストロのソースは、濃厚なクリームを贅沢に使いながらも、たっぷりな白ワインのアルコール感に軽やかさを感じる仕上がりだ。
ブレス鶏と生きる村
「地元に住む私たちにとっても、ブレス鶏は誕生日などの祝い事でメインディッシュとして食べる特別な鶏」だと、前出のドライバーが教えてくれた。
そして、この文章を書いている間に、嬉しいニュースが飛び込んできた。毎年12月に行われているブレス鶏のコンテストで、デグルエイル氏の鶏が2015年、2017年に続いて、2018年もチャンピオンに輝いたのだという。伝統的に、チャンピオンに輝いた鶏は、エリゼ宮の食卓に上るそうだ。
デグルエイル氏の鶏は、餌やりの回数が格段に少ないだけあって、広い敷地を駆け回り、自力で餌をしっかりと食べてきた堂々とした体つきと綺麗な色艶の羽が印象的だった。柵はあるものの、その下に穴を掘って入ってくる狐などに約20%は淘汰されてしまう。そんな自然の中を生き抜いた強さを感じる鶏だった。
ブラン氏によると、「ブレス鶏の売り上げは順調で、数十年前と比べて出荷数は格段に伸びている」というが、唯一売り上げが減ったのが2006年、村にほど近いリヨン近郊で鳥インフルエンザが出たときだった。鶏肉の売り上げが一時3割ほど落ち込んだが、ブラン氏はその知名度を生かし、テレビなどに積極的に出演して安全性を訴え、信頼回復に努めた。
ブレス鶏は、脚が青く、体が白く、赤いトサカを持ち、仏国旗のトリコロールと同じ色をしている。フランスのスポーツチームのシンボルマークとしても雄鶏が使われているのは、よく知られるところだ。
名実ともにフランスのプライドを代表するブレス鶏は、その母国の大自然に囲まれた、小さな街の三つ星レストランと、長い年月を共に歩んできた。
そのレストランでは今、ブラン氏がメニュー作りを行い、息子のフレデリック氏が厨房の指揮を取っている。また、デグルエイル氏の娘で11歳のクロエは、学校の後にブレス鶏の世話を手伝っている。こうして伝統は、途絶えることなく次の世代へ引き継がれて行くことだろう。