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2019.01.13 11:00

三ツ星に輝き続けるシェフ、ジョルジュ・ブランが育む「鶏の王国」


まるで「鶏の王国」とも言うべきブラン村の始まりは1970年代。ブラン氏が、曽祖父母の時代から代々伝わるオーベルジュ(現在はビストロとして営業)の付近にあった30軒を少しずつ買い取っていき、いまや総敷地面積7ヘクタールに及ぶほどに拡大した。村全体がブレス鶏のPRになっている、そんな印象だ。

三つ星シェフが「鶏の王国」を作った理由

ブラン氏は1986年からずっとブレス鶏のアンバサダーを勤めているが、彼がこれだけの愛情を注ぐのには理由がある。

ブラン氏は、曽祖父母が1872年に創業したレストランの4代目として生まれた。ミシュランガイドブックがレストランに星をつけ始めた1926年のことだが、それからわずか3年後の1929年、彼の祖母が料理を作っていたレストランが一ツ星を獲得。その時に高く評価された皿が、ヴォナの地鶏、ブレス鶏とこの地域特産のクリームを使った「鶏のクリーム煮」だった。以来、90年にわたって受け継がれている、ジョルジュ・ブランの看板メニューだ。

18世紀から19世紀を生きた美食家で、邦訳もされている著書「美味礼讃」でも知られるブリヤ・サヴァランも絶賛し、1957年から今に至るまでヨーロッパで唯一原産地認証された鶏であるブレス鶏だが、その名を世に知らしめたのは、21冊の本を著し、それらが22カ国語に翻訳されるなど、世界的な知名度のあるジョルジュ・ブランの功績と言っていいだろう。

野生に近い状態で育てられる「ブレス鶏」

ブラン氏が使う鶏の3人の生産者のうちのひとりで、ブレス鶏のコンテストで何度も受賞しているシリル・デグルエイル氏に、農場を案内してもらった。

ブレス鶏と呼ばれるためには、一羽あたり10平米以上の土地を与えて放し飼いにする必要がある。デグルエイル氏の農場でも、広い草原で、鶏たちが足やくちばしで土を掘り起こしては、何かをついばんでいる。虫や種などを食べているのだという。

デグルエイル氏のやり方では、仕上げにケージに入れて10日間ほど肥育させるまでは餌をやるのは週に1回だけ。しっかりと運動し、自分の力で餌を取る。「十分な餌が大地にはあるから、それ以上の餌やりは必要ない」と同氏は言う。



また、放し飼いのため、狐などの野生動物に襲われることもあり、ある意味過酷な環境を生き延びた鶏でもある。接近して写真を撮ろうとしたが、ものすごいスピードで逃げられてしまい、近寄ることすらできなかった。「肥育期間に入るまでは、野生みたいなものだからね」とデグルエイル氏は、少し申し訳なさそうに笑った。

与える餌は、トウモロコシと牛乳を発酵させた粥状のものだ。粉乳を使う地域もあるが、デグルエイル氏は地元の搾りたての牛乳を使い、トウモロコシと混ぜて発酵させてから与えるのが、美味しさを生み出す秘訣だと語る。

「30年前に父が農場を作った時代は羊や牛も飼っていたが、15年前に私が引き継いでからは、専業でブレス鶏だけの飼育ができている。それは、著名なシェフであるブラン氏が、世界にブレス鶏を紹介してくれたおかげ。今は海外のシェフからも引き合いがある」という。

肥育に入ったブレス鶏は、しっかり脂が乗っているかどうかを血管の様子で確かめ、一羽一羽、状態を見て出荷する。
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文・写真=仲山今日子

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