三ツ星に輝き続けるシェフ、ジョルジュ・ブランが育む「鶏の王国」

フランスxx部のヴォナ村にあるミシュラン三ツ星オーベルジュ「ジョルジュ・ブラン」


訪れた時は秋のメニューだったが、ブラン氏はちょうど冬のメニューを考案中だった。

彼はクラッシックなスタイルで知られるが、今も昔も「ゲストから学ぶ」をモットーにしており、「たとえ自分が理想とする“美味しい料理”があったとしても、ゲストが食べ残したら、ポーションや付け合わせ、ソースを変える」と、徹底した顧客主義を貫く。


書斎の棚の中に、季節ごとの食材の一覧があり、それによって組み合わせを考えるのだと言う。

そんなブラン氏が感じる最近の料理のトレンドは、人々が「フレッシュな味を求めるようになった」とことだという。「あまりにイノベーティブだったり、テクニカルすぎると、食材のフレッシュさが失われてしまう。今は、味わいの時代に戻りつつある」と感じているという。彼の言うフレッシュさとは、良質な旬の食材そのものの、それぞれの個性のことだ。

そのフレッシュさを表現するため、ブラン氏の厨房では、今も昔も、昼・夜のサービスごとに、8〜9種類のソースを1から作るのだという。

クラッシック中のクラッシックというべき「ブレス鶏のクリーム煮」を、三つ星のファインダイニングと、元々のレストランがあった場所にあるビストロで食べ比べてみた。

食材も器も「最高のもの」だけ

ファインダイニングでは、ソースはシャンパンフォワグラソースで、ブレス鶏の白レバーと卵で作ったフランに、ザリガニのソースを添えていただく。そのフランの上にも、鶏をかたどったチュイルが飾られている。


ファインダイニングの「ブレス鶏のクリーム煮」

ソーシェ(ソースの担当者)の網津聡氏は、「食材でも食器でもなんでも、最高のものしか使わないのがジョルジュ・ブランだ」という。厨房では毎週300羽近いブレス鶏を使っているが、三ツ星レストランで使うのは胸肉だけ。モモ肉はすべてソースに使うという贅沢さだ。こちらで使わない内臓などはビストロで使うようにしているという。

フランス料理の最も重要なアイデンティティの一つとも言われるソースだが、ひときわクラッシックなスタイルで知られるジョルジュ・ブランのソースはどんなものなのか。網津氏に、ソース作りの秘訣を教えてもらった。

このソースのために、一回の仕込みで使う鶏のモモ肉は20羽分。塩コショウをしてから焦がしバターで焼き色をつけ、マッシュルームと玉ねぎ、にんにくを入れて炒める。近郊のマコン産の白ワイン(シャルドネ)を加えて水分がなくなるまで煮詰めてから、地元産のクリームを加えてベースを作り、さらにシャンパン、仕上げにバターの代わりのフォワグラを入れると、「ソースの分量の20%くらいがフォワグラ」という濃厚なソースが完成する。

付け合わせは、ふわふわのジャガイモのパンケーキに、コンフィにしたにんにく、セップ茸、クミンなどのスパイスを効かせたかぼちゃなど、クリームと相性の良い食材を添える。

濃厚なクリームのソースにも負けない、しっかりとした旨味とコクのあるのがブレス鶏だ。かつては煮込んでいたが、今は肉にちょうど良い火入れをするためにローストしている。シャンパンの甘い香りとフォワグラの相性も抜群。食感が硬いわけではないが、放し飼いのため身が締まった肉質のブレス鶏に、脂肪分のあるソースはよく合うのだ。
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文・写真=仲山今日子

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