ランチを食べている私の席に興奮した面持ちでやって来ると、ジョルジュ・ブランはこう続けた。「これは、ブレス鶏の最高のプロモーションになる。マクロン大統領に、ブレス鶏の歴史の本を送っておいたんだ」
37年連続でミシュラン3つ星を取り続けるシェフ、ジョルジュ・ブラン。彼にインタビューをした2018年11月11日、パリのエリゼ宮では第一次世界大戦終結100周年を記念した昼食会が行われ、トランプ大統領やプーチン大統領など、各国首脳が参加していた。その昼食のメニューに、ブレス鶏が選ばれたのだという。私は彼の店「ジョルジュ・ブラン」で同じくブレス鶏をいただいていた。
ブレス鶏とは、ヨーロッパで唯一原産地統制名称(AOC)認定された鶏で、「世界で最も高価な鶏肉」と呼ばれることもある。日本でも高級フランス料理店で提供されているが、そのブレス鶏の世界的な人気の立役者がこのブラン氏だ。
その数時間前、田舎道にそぐわない、真っ白なスポーツカーの革張りシートに身を沈めて、ヴォナという村へと向かっていた。アクセスは、日に数本しかない電車とバスを除けば、車しかない。しばらくすると、「もうすぐ彼の村に着くよ。見たらすぐにわかる」と、ドライバーが声をかけてきた。
ジョルジュ・ブランへの客をよく送迎するというおしゃべりなドライバーは、出身地のリヨンから、より良い仕事を求めてヴォナに移住したという。ブラン氏を家族ぐるみでよく知っていて「彼のおかげでこの村が豊かになっている。素晴らしい人物だし、敏腕ビジネスマンでもあるね」と誇らしげに話す。
「美味しい」は人を呼ぶ
今、様々な国や地域がこぞって「美食観光(ガストロツーリズム)」に力を入れている。美味しいレストランや料理が、観光客を集めるために大きな力になっている、ということが知られ始めたからだ。
だが、それを何十年も前に、フランスの片田舎で成功させたのが、三ツ星シェフのジョルジュ・ブランだ。ヴォナは今も人口3000人ほどの小さな街だが、ビストロを含めた彼のレストラン目当てに多くの観光客が訪れ、夏のバカンスシーズンともなれば250席もある店が連日満席になる。
やがて真っ白な車は、大きな鶏のオブジェが迎える「ブラン村」の中心、ミシュラン三つ星に輝き続けるオーベルジュ「ジョルジュ・ブラン」に到着した。入り口のドアの取っ手まで鶏の形をしている。部屋に入ると、タオルやバスローブ、小物入れに至るまで、これでもかと言うほどブレス鶏のマークが入っていた。
このブラン村には、オーベルジュに併設されたスパと農園をはじめ、ビストロ、ベーカリー兼パティスリー、ワインショップ、オーベルジュよりも手頃なホテルなどが立ち並び、そのどれもがブラン氏お気に入りの「鶏」モチーフで埋め尽くされている。