もう一つ、エルメ氏が大切にしているのが、アイデアを生み出す「人との出会い」だ。
「自宅にも、いくつかのアート作品がありますが、それは私が個人的に会い、考え方やアイデアを交換したアーティストのものです」
「出会い」はアーティストに限ったものではない。生産者との出会いも同じだ。実際に、わさびと苺といった組み合わせは、わさび畑を訪れ、生産者から、わさびの先の部分は甘い、と聞き、実際に味わったことがインスピレーションにつながった。今は、同じく生産者を訪れて思いついたという、梅干しを使ったデザートを開発中だという。
「この酸味をどう活かそうか、と考えています。最初は他の食材と合わせずに、梅干しだけのスイーツにするつもりです」と、最近2年ほどの「挑戦」なのだという。
日本での新たな挑戦
日本に初めて来てから30年、初の店舗オープンから20年を迎えたというエルメ氏が、そんな生産者へのオマージュを形にした新店舗が、11月、丸の内にオープンした。
「Made in ピエール・エルメ」という名のその店は、日本の生産者が作る調味料などの食材や雑貨などを集めた、エルメ氏にとって世界初のコンセプトショップ。ブランドロゴもカタカナにするなど「実験的な意味もある」というこの店で、エルメ氏は「日本の生産者を紹介すると同時に、カジュアルな雰囲気で、若い世代にアプローチ」を狙う。
このコンセプトショップでは、マカロンや焼き菓子などの通常のメニューのほか、弁当も販売されている。こだわりの生産者から届く「ピエール・エルメ」ブランド米を使ったご飯の上にヘルシーで低脂肪のチキンやマグロなどの丼に、野菜をたっぷり使ったサイドディッシュ、マカロン1個がデザートについて1200円。これまでのラインナップよりも手が出やすい価格帯だ。
また、ご飯はグルテンフリーでもあり、野菜をたっぷり使ったおかずの丼というのも、今の健康志向にマッチする。世界的な「Bento」ブームと相まって、日本だけに留まらない展開が望めそうだ。
「食事は健康のために、スイーツは喜びのために」
エルメ氏が今見ている「スイーツの未来」のバランスは、こんな形なのかもしれない。