スイーツ界のピカソ、ピエール・エルメが見る「未来のスイーツ」の形

「ミシュラン香港・マカオ2019」のガラディナーで提供されたピエール・エルメ氏によるスイーツ

「今の顧客は、砂糖や小麦粉を欲しがらない。ペストリーファーマシー(お菓子薬局)という看板を掲げるつもりはないが、このカテゴリーの需要があるのは確かだ」

そんな言葉で、稀代のパティシエ、ピエール・エルメ氏とのインタビューは始まった。

今月11日、エルメ氏はマカオのグランド・ハイアットホテルで開催された「ミシュラン香港・マカオ2019」の授賞式にいた。同日夜のガラ・ディナーのデザートを作るためにマカオを訪れており、インタビューの機会を得た。



フランスには、「食事は健康のために、そしてスイーツは喜びのために必要だ」という考え方があるという。「お菓子は砂糖やバターが使われていて、たくさん食べると太るという人はいる。けれど、たくさん食べなければいいでしょう」とエルメ氏は言う。

インタビュー用のテーブルの上には、マカオの「ピエール・エルメ・ラウンジ」で提供されている、プラリネ、チョコレート、パイ、サブレなど、たくさんのお菓子が並んでいる。

そんなことを話しながら「ほら、これ、食べてみて」とリーフパイのようなお菓子、アーレット(Arlette)を勧められる。しっかりとキャラメリゼしたバターと砂糖の味は、文句なしに美味しい。フランスの昔ながらのお菓子なのだという。

唯一の基準は美味しいかどうか

エルメ氏といえば、バジルやバルサミコ酢など、これまでにスイーツの主役として使われてこなかった食材も積極的に取り入れることで知られる。そのクリエイティビティを讃え、1994年米VOGUE誌では「スイーツ界のピカソ」と評されている。

また、日本との関わりも深く、ちょうど20年前に自身初の小売店がオープンしたのも、フランスではなく、東京のホテルニューオータニ内だった。日本の生産者訪問も積極的に行い、当時フランスでは珍しかった柚子や抹茶、わさびの日本食材をフランスのスイーツ界に紹介した第一人者と言えるだろう。

こうした新しい食材、例えばわさびを初めて食べた時に、どうしてスイーツに使いたいと思ったのか。「エキゾティックで面白いと思ったからですか?」と尋ねると、「美味しかったから」という答えが返ってきた。それが、食材をスイーツに使う際の唯一の基準なのだという。
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文=仲山今日子

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