閉じる

PICK UP

世界38カ国、800万人が愛読する経済誌の日本版

CMOとしてラクスルの成長を裏で支えている田部正樹。彼は急成長を目指すスタートアップにはCMOが必要であると言う。


「マーケティング担当は僕ともうひとりだけでしたし、売り上げ規模もいまの1/16程度(FY2013→FY2017)。どんなにいいプロダクトでも、誰も知らなければ、売れるものも売れない。僕がやることはただひとつ。どれだけ効率よく認知度を上げられるかどうか、でした」

ラクスルのマーケティング戦略を一手に担う田部正樹は、入社当初をこう振り返る。

2009年創業のラクスルは、田部が入社した14年以降、未上場時に総額約60.5億円を増資し、年間売り上げは約110億円にまで拡大。その急激な成長に大きく寄与してきたのが、彼が推進するProduct(製品)・Price(価格)・Place(流通)・Promotion(プロモーション)の「マーケティングミックス(4P戦略)」だ。

「どのスタートアップも黎明期は特にそうでしょうが、リソースが限られている。その中で大事なのは何にフォーカスするかを考えるのではなく、とにかく『4PすべてのPDCAサイクルをゴリゴリ回す』こと。ただし、やみくもにやっても意味がない。いかに早く“勝ち筋”にたどり着けるかどうか。これがマーケティングの鉄則です」

ラクスルが最初に仕掛けたのは、両面カラー・100部で500円から注文できる「500円名刺」だ。圧倒的に優れたプロダクトをリリースすることで、媒体露出を獲得。認知拡大へつなげた。

次に導入したのは、「ユニットエコノミクス」の概念だ。顧客1人あたりのLTV(LifeTime Value:顧客生涯価値)やCPA(Cost Per Acquisition:1成果あたりのコスト)を重視し、顧客ロイヤルティを高め、新規ユーザーをリピーターにするためのPDCAサイクルを遂行しつづけた。

「“勝ち筋”とはつまり、再現性のある施策のこと。それを見つけるためには、精度の高い仮説が必要になる。どんなプロダクトや価格なら売れるのか、どんなプロモーションがユーザーに“刺さる”のか。地道に市場調査したりABテストを繰り返したりしながら明確な理由を突き止めるためには、専門知識が必要です」

シード期のスタートアップでは、その役割を代表が担うことも珍しくない。だが、そこに落とし穴があることも多いと言う。

「創業者は基本的に思いが強く、何か新しいことをやろうとしていて、プロダクトに対する愛が強い人も多い。だから“メディア受け”は良いんです。けれども、それが世の中の価値観と合致するとは限らない。これまでにないものをつくることは、これまでの常識とは異なるところに価値を見いださなければならない。そのプロダクトが顧客にとってどんな価値をもたらすのか、何を可能にするのか。CMOは創業者の思いを“翻訳する”役割だと思います」

田部がその大きな役割を果たした施策のひとつは、テレビCMを活用したマーケティングだった。ラクスルの強みである、印刷業界におけるシェアリングエコノミー型ビジネスモデルを、重点ターゲット顧客である“中小企業経営者”の観点から解釈し「1枚1.1円から。はたらく人のネット印刷」をキャッチコピーに。実際の利用者の体験談を反映したCMを放映した。

「たとえば、ビズリーチは『転職サイト』ではなく、『即戦力採用ならビズリーチ』とワーディングしたところに成功のカギがあったと考えています。ラクスルは何の会社で、どんな価値があるのか。『コレだ』と決めて、集中投資する。そのポイントさえ外さなければ、認知と売上が比例して伸びていくはずです」

ラクスルはテレビCMによって獲得した新規顧客をもとに売り上げを伸ばし、サービスを拡充。物流サービス「ハコベル」や、チラシ・DM印刷から配布・配送までを一手に担う集客支援サポートプラットフォームをスタートさせるなど、「中小企業の商売革命」を実現していった。

文=大矢幸世 写真=西村裕介

記事が気に入ったら
いいね!しよう

LIKE @Forbesjapan

Forbesjapanを
フォローしよう

FOLLOW @Forbesjapan

あなたにおすすめ

合わせて読みたい