ビジネス

2018.11.01

スタートアップにCMOが必要な理由とは?


スタートアップこそ経営視点のマーケティングを

流通小売りの丸井グループ、ウェディングのテイクアンドギヴ・ニーズと異なる2つの業界において、広報や事業戦略、マーケティングに携わってきた田部は、BtoCからBtoBへ、大企業からスタートアップへと、新たなフィールドを求めてラクスルに入社した。顧客からよりシビアな条件が要求されるBtoB、小回りの利くスタートアップだからこそ、自ら包括的な戦略を組み立てられると考えたからだ。

「日本企業……大企業のマーケターですら、その多くがプロモーションや宣伝活動ばかりを行っている。プロモーションは本来“最終手段”なんです。成果を上げるために何をすべきか。広告なのかプライシングなのか、まだプロダクトを磨き込むべきなのか、場合によってはカスタマーサービスに集中投資すべきかもしれない。4P戦略を真の意味で実現するためには、“CMO”でなければならないんです」

経営の中枢に関わりながら、限られた資金を何に投資すべきか、判断できる根拠を現場でかき集めていく。スモールスタートでトライアンドエラーを繰り返し、マーケティングの精度を高めていく──。

「テレビCMでもいきなり“1億突っ込む”無謀さではなく、地方で100万から投下して、そのエリアだけで再現性を実証してみるとか、やり方はいろいろある。けれども『ここぞ』というタイミングはあります。メルカリはまさにその瞬間を逃さず、一気にアクセルを踏み込んで競合を引き離した。経営視点で最善の選択を取ることが、スタートアップのマーケターには必要です」

田部が次に見据えているのは、新規事業創出だ。CMOと並行して広告事業本部長として、テレビCM制作から放映までワンストップで手がける新サービスを立ち上げた。しかも「制作放映込みで50万円から」という破格値だ。これまで行ってきた集客支援サポートサービスをテレビCMにも応用し、広く中小企業のビジネス成長をサポートする構えだ。

「この4年間で会社の売り上げ規模も16倍にまで成長を遂げたわけですから、自分自身も成長しながら、その体感値のなかで自ら激動の時代を作ってきた自負もある。会社の成長過程で行ってきたマーケティング施策を他の中小企業にも提案して、その企業の事業成長を実現することで、施策の再現性を証明していきたい」

まだメジャーではないCMOという役割だが、スタートアップでその職責を果たすにはどんなスキルが必要なのだろうか。田部は自らの経験から、「一人でもやり抜く力とマインドがあること」を挙げる。

「特にスタートアップでは“勝ち筋”のありかは誰にもわからない。でも“アタリ”をつけるにはデータやファクト分析に強く、総合的なマーケティングスキルを持ちながら、自分の仮説をスピーディに検証できる必要がある。そして、それを横展開するために、適切な人材を採用して組織化していく。人材採用もある意味、“マーケティング”ですからね」

印刷という伝統的な業界のインターネット化と効率化をマーケティングの力で推進していく。


田部正樹◎ラクスル取締役CMO/広告事業本部長。1980年生まれ。中央大学卒業後、丸井グループに入社。主に広報・宣伝活動などに従事。2007年テイクアンドギヴ・ニーズ入社。営業企画、事業戦略、マーケティングを担当し、事業戦略室長、マーケティング部長などを歴任。14年8月にラクスルに入社。マーケティング部長を経て、16年10月から現職に就任。

文=大矢幸世 写真=西村裕介

この記事は 「Forbes JAPAN ストーリーを探せ!」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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