「現代の魔法使い」と呼ばれる落合陽一と、「VR認知症」などVRコンテンツの開発や、サービス付き高齢者向け住宅を運営する下河原忠道の対談(モデレーター:デジタルハリウッド大学院 木野瀬友人)を通して、介護・ダイバーシティとテクノロジー融合を模索した。 (前編はこちら>>)
多様な意見に対し、インクルーシブになっているかどうか
下河原忠道(以下、下河原):介護の現場で実際に、「もしテクノロジーに置き換わるとしたら、どんな業務を変えたい?」と聞いたら、どんどん出てくるんですよ。全部をテクノロジーに置き換えなくていいんです。部分的に、少しずつテクノロジーが入ってくると嬉しいことは、現場でたくさんあります。
落合陽一(以下、落合):それをグループ化すると、割りときちんとした解決案やプロジェクトになることが多いですね。
木野瀬友人(以下、木野瀬):社会や企業が「ダイバーシティ」や「インクルージョン」と言っていますが、それを受け入れていくには何が必要なんでしょうか。
落合:僕は、インクルージョンというのが本質的な問題だと考えています。ダイバーシティの高い社会は当たり前で、インクルーシブな社会かどうかのほうが重要なんです。例えば、何かツイートしたらクソリプが飛んでくるような世界は多様です(笑)。でも、クソリプが飛んでくる時点で、受け入れられているとは言えないので、インクルーシブではない。これはすごく重要です。
多様な意見があったときに、インクルーシブになっているか否かが、大きな社会課題になっています。そういう状況の中で、いかに問題を集めてグループ化し、テクノロジーを使って、市場を形成するに値するような事業を作り出せるかというのが勝負だと思います。
2人が目指す介護業界の未来
木野瀬:お2人が目指す介護業界の未来がどのようなものなのか、身体的・心理的な拡張を含めて、これからどうなっていくのか教えてください。
下河原:高齢者住宅を運営している身ではありますが、高齢者だけが集中していること自体が変だなと思っているんです。目標は「介護士がいない高齢者住宅」──もはや高齢者住宅ではありませんね(笑)。介護を必要としない高齢者が増えていき、認知症があっても全く問題ないという社会的心理関係がある。なるべく介護士を必要としない社会が、目指すところだと考えています。
下河原忠道
落合:その通りだと思います。なぜなら、エコシステム(生態系)というのは、自立している必要があるからです。外部から何か常に補助が入っていなければならない状況は、良くないんです。
介護において今後求められる多様性は、テクノロジーの力を使わなければできません。つまり、産業革命以降の基本デザインでは対応できないんです。例えば、廃校になりそうな学校や、つぶれそうな介護施設に税金を投入し続けて、結局つぶれてしまったというような事態は、今後あちこちで出てくるはずです。基本デザインをベースにして、どこまで変えられるかという0→1の議論をそろそろ本気で始める必要があります。
日本の官僚機構には、計画経済において最適解を出すべき非常に頭がいい人が集まっています。さらに有識者を集め、検討を重ねた結果が政策としてでてきますが、これが市場にとって最適かといったら、そうではありません。彼らも多様性のうちの一部であって、全体最適ではないからです。昔のように全体が均一だったら成立した話が、均一ではないから成立しないという社会になりつつあるんです。
僕は今、40年後の自分がやりそうなことをやっています。今やっているのは、現場に解決策を出せるような人を増やすこと。これをあと15年くらいはやりたいと思っています。頭のいい人はみんな、政策を立てる側に行ってしまうんですよ。彼らを本当に必要としているのは現場です。現場の肌感があって、頭が切れる人が全然足りないのが現状です。問題もやるべきことも明らかなので、やればいいだけなんですが、とにかく人が足りない。