ビジネス

2018.03.02

なぜ、日本人がインドネシアで介護の専門学校をつくったのか?

受け入れに奔走する酒井洋茂氏。

インドネシアといえば、赤道直下の青い海。海辺に広がる美しいビーチリゾートを思い浮かべてしまう。しかしそんなイメージとは縁遠く、この国に介護の専門学校と日本語学校を設立した日本人がいる。「さくら協同組合」の酒井洋茂さんだ。

酒井さんが代表理事を務める「さくら協同組合」は、東京を拠点にして、外国人技能実習生を受け入れている。これまでは食品産業や建設業を中心に、ここインドネシアをはじめ、ベトナムやタイ、ネパールなどの人たちを日本企業へと紹介してきた。これらの実績を聞くと、酒井さんが日本語学校を設立した理由は想像がつくのだが、介護の専門学校となると、何故という疑問が湧く。

実は、日本では2017年11月より、老人ホームなどの介護施設でも外国人技能実習生を受け入れることが可能になった。この技能実習制度は、昨今ニュースを賑わすことが増えているが、そのほとんどはこの制度に対する問題点や、来日した外国人が起こしたトラブルを伝えるものばかりだ。

「技能実習生」と謳っているこの制度だが、実際のところ技能実習というよりは、労働力の確保という点に重きを置かれているのが現実のようだ。よくありがちな「実態に合ってない制度の典型」といえるだろう。彼らを雇う企業側は、技能を教えるというよりは、低賃金で雇うことのできる労働力として実習生を見ているケースが多いのではないか。

技能実習生として日本にやってくる外国人は、当然のことながら文化も違えば、仕事に対する考え方も違う。働く意欲を見せなかったり、母国とは異なる日本の慣習を知らずに日常生活でトラブルを起こしたり、あるいは受け入れ先を逃げ出してよりよい条件で雇ってくれるところに不法就労したりするということも少なくない。日本語の能力が不十分で、受け入れ先とのコミュニケーションがうまくいかないであろうことも容易に想像がつく。
 
契約書より盃を交わす

外国人実習生をめぐるこのような状況があるなかで、現在、酒井さんが外国人実習生を紹介している企業も、最初は受け入れに消極的だったという。それでも実習生の受け入れを決めたのは、実習生を受け入れて生産性を高めない限り、会社が存続できないという状況にあったからだ。

酒井さんの紹介した実習生を受け入れた企業はその後どうなったかというと、次々と新たな受け入れを希望したり、あるいは知人の会社に酒井さんを紹介したりしてくれたそうだ。酒井さんが紹介する外国人実習生は、同業他社が紹介する外国人に比べてトラブルが少ないからだという。何故、酒井さんのもとには良い人材が集まるのか。そこには酒井さん独自の外国人との付き合い方がある。

人材業に限らず、あらゆる業種において言えることだと思うが、外国企業と取引をする際には、現地での信頼できるビジネスパートナーを見つけることが不可欠であり、またそれが最も難しいところでもある。酒井さんも、以前、正式な契約書を交わしたにもかかわらず、現地パートナーに裏切られたことがあるそうだ。

そんな経験を経て、酒井さんがどのように外国人と仕事をまとめているのか。その方法はなんと、契約書ではなく、盃を交わすことだという。21世紀を迎えて久しい現在、そんな「三国志」のようなやり方があるものかと思ってしまうが、実際それでうまくいっているというのだから、なかなかに説得力がある。「大事なのはかたちではなく、人と人とが心を通わすことだ」と酒井さんは言う。

外国人実習生の場合、紹介者は、日本に来たいという外国人よりも、彼らを受け入れる企業の意向を重視してしまいがちだ。しかし、はるばる日本へ出稼ぎにやって来る実習生にも母国があり、家族があり、それぞれの人生がある。実習生に寄り添い、彼らを理解し、大切にするからこそ、酒井さんのところには良い人材が集まるのだ。酒井さんに全幅の信頼をおく実習生は、日本でも安心して、いい仕事ができる。受け入れ企業が満足するのも当然である。
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文=鍵和田 昇

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