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2017.09.17

日本の「空き家」を狙うのも、やはり中国の人々か

Yolanta / shutterstock

東京郊外としては敷地が広い屋敷である。知人が最近、リフォームを完了させた建物だ。羨望の目を向ける私に、彼は嘆息で応えた。

「いまや、スクラップにお金がかかる。ビルドにはもっとかかる。スクラップアンドビルドになったら大変なんだ」。

最近、路線価も上がってきたし、この古屋を売却して都内のマンションに引っ越すか、と思っていたそうだ。東京まで一時間強なので、通勤圏内である。ところが、地元の不動産業者は、土地が広すぎてそのままでは売りにくい、売るなら更地にして三分割すべきだ、という。

「更地にするには建物を壊さなければならず、相見積もりをとったら、一番安くて600万円もかかるって」

これに対して、リフォームは800万円程度だと言われていた。両親の思い出もある。200万円の差なら、壊すよりもリフォームだ、と考えた。

「伏兵がいた。家財道具などの産業廃棄物処理代金さ」。庭に覆いかぶさる樹木の処理もバカにならない。総額で300万円払ったそうだ。この処理代は、建物を壊そうがリフォームをしようが、どちらの場合も必要である。要するに、迫られた選択はスクラップに900万円かけるか、スクラップアンドビルドに1100万円払うか、だった。

放置して売れるときに売ればよいではないかと聞くと、「空き家問題を知らないのかい」と返してきた。

現在、日本中で空き家は820万戸以上ある。7軒に1軒が空き家なのである。空き家のなかでも、特に用途不明で長期間放置されている、「その他の住宅」が問題視されている。倒壊、火災、セキュリティ悪化、犯罪などの危険が増し、近隣も困っているからだ。空き家の4割が、その他の住宅だ。

そこで国は、一昨年から「空き家対策特別措置法」を施行して、老朽化の著しい「特定空き家」に、通常の住宅が持っているさまざまなメリットをなくすことにした。

「リフォームした家は築36年。なまじ庭が広いから野良猫の棲み処になって、ハクビシンも寄ってきそうだった。漏電の恐れもあった。特定空き家に認定されたらえらいことになる」

特定空き家とみなされると、まずは不動産の固定資産税の税率が一挙に6倍に跳ねあがってしまう。さらに可及的速やかに修・整備をしないと、自腹での取り壊しを求められる。

中部山岳地帯に古い実家がある友人は、さらに深刻だ。最寄りの新幹線駅から車でも電車乗り継ぎでも2時間あまりを要し、周囲にはコンビニもない。「95歳で寝たきりの母親もそう先は長くない。俺は真剣に相続放棄を考えているよ」。

国や自治体の多くが、空き家対策に税制優遇策や助成金などの経済支援、空き家バンクなどの市場情報の充実を図っているものの、現状では焼け石に水である。
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文=川村雄介

この記事は 「Forbes JAPAN No.38 2017年9月号(2017/07/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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