ビジネス

2018.03.02

なぜ、日本人がインドネシアで介護の専門学校をつくったのか?

受け入れに奔走する酒井洋茂氏。


仕事とは人に喜ばれること

さて、話を最初に戻そう。日本での介護の実習申請には、日本語検定の所持が条件となっている。そこで酒井さんはインドネシアに日本語学校を設立し、日本で働きたい人材を集めて日本語教育を行うようにした。それと同時に現地で介護の専門学校を運営するパートナーと協力して(その人とも盃を交わしているのであろう)、既に日本語検定を所持するインドネシア人に介護を教え、日本へと送り出そうとしている。

日本では高齢化社会が進み、医療福祉現場の人手不足が叫ばれるなか、老人ホームの人手不足は深刻なところまで来ている。そのような背景が介護分野での技能実習生受け入れ開始に繋がったわけだが、酒井さんのところには早くもいくつかの介護施設から受け入れ希望の打診が来ているそうだ。

もちろん、外国人には介護されたくないという人もいるだろう。そうでなくても外国人実習生に関わる仕事は「人身売買だ」と否定的に捉えられることが多いという。それでも酒井さんは自身の仕事に誇りを持っている。

「自分たちが実習生を紹介しないと、潰れてしまう企業があるとします。それは単純に仕事の機会が消滅するだけでなく、その地域に根付くひとつの文化の消滅につながることもあるのです。そのような危機に瀕していた方々から『酒井さんのおかげで助かっているよ』と言われると嬉しいですね。また、実習生は日本でお金を稼いで、母国で暮らす家族の生活を支えなければなりません。彼らは自分だけでなく、家族の人生も背負って日本に来ているのです。技能実習生の制度についていろいろと言う人もいますが、この仕事を通じて喜んでくれる人がいる。だからこの仕事を続けるのです」

人のためになること。人の役に立つこと。人に喜ばれること。仕事とは本来、そういうものなんだよなぁ……と、盃を交わしながら聞いた酒井さんの話に妙に納得した。パソコンを相手に一日中作業をしていると、ついつい「人」の顔を忘れがちになってしまう。しかし、その先には必ず「誰か」がいるのだ。
 
この仕事の向こうには、誰がいるのか。それは何の役に立つのか。そもそも自分は何のために仕事をするのか。ひとまずもう一杯飲みながら、ゆっくり考えてみる必要がありそうだ。

文=鍵和田 昇

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