ビジネス

2018.05.20 16:00

現代の魔法使いが描く、「自分で自分をハックできる」未来

木野瀬友人、落合陽一、下河原忠道の3名が「介護・ダイバーシティとテクノロジー融合」について話し合う。


自分で自分をハックする
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木野瀬:ダイバーシティ、多様性を獲得して、その社会に適応していくには、金銭面や政治面、テクノロジー面などさまざまあると思いますが、1人ずつ「こういう未来でありたい」というようなメッセージをお願いします。

下河原:僕は起業家なので、新しいビジネスを立ち上げるのが好きです。そうしているうちに、いつしか社会問題に立ち向かうことになりましたが、すごく面白いことだと気がついたんです。山積みの社会課題に対して、ビジネスの力で改善に持っていくという文脈がすごく面白いし、もっと起業家たちはその方向に走るべきだと思います。重要なのは、ビジネスとして横展開できることが担保されたうえで、そこに社会問題の改善がついてくるという順番です。

落合:僕は、自分自身をハックできることが重要だと思います。視聴覚や身体のダイバーシティに対して、高齢者がプログラムを書くのは難しいかもしれませんが、10代の子が自分で自分のプログラムを書けるようになればいいと考えています。「なんだか耳の聴こえが悪いから、機械学習を入れよう」と自分でできればいい。
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ろう学校や盲学校でやるべきなのは、テクノロジーを使って、自分の個性である障害をチューニングするために、そのテクノロジーを自分で操作できる能力を身につけるような教育です。

仕事人であれば、自分の仕事道具を洗ったりメンテナンスしたりします。それと同じように、自分のできること・できないことを、テクノロジーを使ってどう補助するか。それを自分で制御可能にしておくのが大切です。

ダイバーシティに受け入れられるには、安いものを作る必要があります。しかし、品質保証が厳しく、基本的に安心・安全を基準にしている大企業はそう簡単に安い製品を出せません。だから本人が自分の意志で作り、自分で管理するんです。自分で作ったものであれば、市場が存在しないところに市場を作ったことになるため、競合もいません。このハック可能な状態を実現するために、いろんな現場の問題を解決していけるような頭の切れる若い人が必要なんです。


落合陽一

木野瀬:テクノロジーの力を使って、介護や医療の分野で何ができるか考える際、どうしても身体性の補助に関することが思い浮かびます。心理面や精神性の欠落に関して、テクノロジーはどのような形でそれを補助することができると思われますか?

下河原:テクノロジーは、補完する役割ではないかと思うんです。テクノロジーがキッカケで外に出たくなったり、人とコミュニケーションを取ったりしたくなる、そういうことに使われるべきです。特に認知症のある方にとっての一番の薬は、人と笑い合うこと。それをいかに増やしていくか?ということにテクノロジーを活用する文脈はいいんですが、テクノロジーが主役となって、その寂しさを解決するような文脈には、あまり興味がありません。

落合:この「銀木犀」という施設を回ってみて最初に思ったのは、TVがないこと。普通の高齢者施設には、TVがたくさん置いてあるんです。置いておけば、入居者の方々が集まってきて延々とTVを見ますから。そういう状態は能動ではなく受動的ですよね。つまり、映像配信テクノロジーが人間の能動性を変えることはありません。

僕が思うのは、敢えて”ちょっとした不便”を作るようなテクノロジー。ある程度、能動的なタスクを人に課すためのテクノロジーとは何か?を考えるのが良いのではと思うんです。


落合陽一
◎メディアアーティスト、博士(学際情報学/東京大学)。筑波大学准教授・学長補佐、筑波大学デジタルネイチャー推進戦略研究基盤基盤長。Pixie Dust Technologies, Inc. CEO。VRコンソーシアム理事。一般社団法人未踏理事。電通ISIDメディアアルケミスト。博報堂プロダクツフェロー。


下河原忠道◎1992年より父親の経営する鉄鋼会社に入社。1998年に単身渡米し、薄板鋼板の建築工法を学び、2000年シルバーウッドを設立。2005年に初めて高齢者向け住宅工事を受注したのを機に、高齢者向け住宅・施設の企画・開発事業を開始。2011年7月、千葉県にて、自らサ高住(サービス付き高齢者向け住宅)「銀木犀<鎌ヶ谷>」を開設。一般財団法人サービス付き高齢者向け住宅協会理事。

構成=筒井智子

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