このコンセプトを説いたのが、シリコンバレーに2008年に設立されたシンギュラリティ大学。同校創設メンバーの一人であるサリム・イスマイル氏と、イノベーション領域で日本と世界の橋渡し役を担うアクセンチュアの加治慶光氏、Forbes JAPAN副編集長の谷本有香の三者鼎談が実現した。テーマは、飛躍型企業は日本から生まれるか。
谷本有香(以下、谷本):2014年に出版された「シンギュラリティ大学が教える飛躍する方法(原題 Exponential Organizations)」は今や、世界中から注目される飛躍のための指南書になっていますね。あちこち飛び回って大忙しなのでは。
サリム・イスマイル氏(以下、イスマイル):最近は、ヨーロッパとアメリカ西海岸・東海岸を月2回周期で行き来していますね。日本には素晴らしい可能性があると思っているので、本当はもっと滞在したいのですが。
谷本:本の中で、ExO(飛躍型企業)は20代などの若い世代から生まれたとお書きになっていました。日本のリーダーは60代から70代が多い。彼らにとって必要とされるのは何でしょうか。
イスマイル:いくつかのことが挙げられると思いますが、シニアリーダーは変化への適応が甘いです。
加治慶光氏(以下、加治):日本企業の成長の源泉だった大きなヒエラルキーシステムに加えて、小さく俊敏なチーム創りもできるように変化していかなければならないのではないでしょうか。
イスマイル:企業のシニアリーダーたちはまず、世の中で何が起こっているかを把握する必要があります。そして組織に全く新しい刺激を加える必要があるでしょう。さらに改革のプロセスは組織の中ではなく、組織の端、ギリギリ隣接するエリアで行うことを強く推奨します。
谷本:なぜ、組織の端なのでしょう?
イスマイル:新たな風を吹き込もうとするとき、必ず免疫作用が起こってイノベーションが阻まれるからです。私たちは、成功の種は組織の端でキープしておくこと、しばらく内緒にしておくことが必要だと気付きました。
谷本:そのインパクトがイノベーションに火をつけるわけですね。
加治:一方、日本のタクシー業界からは興味深い反応が起こっています。ExOの代表例としてウーバーが挙げられますが、日本の大手タクシー会社自らが配車アプリの別会社を立ち上げ、対抗策を講じ始めるというケースが現れました。破壊者でありExOである企業体が、既存のプレーヤーにも大きな影響を及ぼし、イノベーションの多様な形が発生していると言えるのではないでしょうか。
イスマイル:シビアな戦いに挑んだのですね。
加治:ウーバーのような破壊者の挑戦を受け、既存企業が覚醒する。そしてイノベーションが加速する。我が国にもそんなうねりが起こることを期待します。
アクセンチュア/チーフ・マーケティング・イノベーターの加治慶光