イスマイル:今は、起業するにはベストなタイミングですね。
加治:キャッシュフローや技術のおかげでしょうか。
サリム:はい、何かを試すコストがとても低くなっています。かつて私がスタートアップを立ち上げたとき、サーバーラックなどがあったため、成功するソフトウェアエンジニアリング会社を築くには2000万ドルかかりました。 それが今やアマゾンのWebサービスがあるため、5万ドルで気軽に一石を投じることができます。
加治:資金調達のハードルが低くなっている。
サリム:これが何を意味するかというと、失敗しても何度も試すことができるということです。
谷本:日本でも起業家の数は増えていますが、ウーバーやエアビーアンドビーのようにはなれません。アメリカや中国と日本の規模の違いはどこにあるでしょうか。
Forbes JAPAN副編集長の谷本有香
イスマイル:本当にクレイジーなことをしようとすると、失敗する可能性が高い。問題なのは、世界の多くの地域、特に日本では、ビジネスが失敗すると、「失敗者」の烙印を押されてしまうことです。
加治:シリコンバレーは失敗に寛容なのですね。
イスマイル:はい。シリコンバレーでは、失敗は単なる経験の一種で、その人が悪いわけではないと考えます。「今回はうまくいかなかっただけ。じゃあ次いってみよう」という感じです。子供が初めてピアノを弾くとき、彼らはド下手なものです。でも、私たちは「もう二度と弾くな」とは言わないじゃないですか。
谷本:なのに起業家がビジネスを失敗すると、次の資金調達が難しくなってしまう。
サリム:私の友人は7回連続でスタートアップに失敗していました。5~8回目に資金を提供したベンチャーキャピタルに「なぜ再びスポンサーをするのだ」と聞きに行くと、シリコンバレー特有の返答をしてきました。「彼はクレイジーだけど、決して止まらない。彼は成功するまで挑戦を続けるだろう。そして彼が成功するとき、私たちもそこにいたい」と。私はこのカルチャーがとても魅力的だと感じています。
加治:日本人は、今ある意識の中に閉じ込められていますよね。イノベーションを意識的に考えてしまっている。
イスマイル:その点が、単一民族の日本におけるビジネスが直面している最大の課題でしょうね。破壊的なイノベーションはいつも、複数のものがせめぎ合って生まれるもの。そして、ヒントは常に外の世界からくるのです。
加治:イノベーションという言葉の純粋な定義に立ち返るべきかと思います。イノベーションとは、あるインテリジェンスと別のあるインテリジェンスの出会いを指します。各産業の境がより曖昧にならなければいけない。
産業間の境が加速的に曖昧になってきている時代においては、出会うインテリジェンス間の距離はより離れていなければならないと思います。
イスマイル:その通りです。日本では、多くの人が自分の社会の中で完結してしまう。外界と接する機会が増えれば、新たなインテリジェンスの化学反応が生まれる可能性は増すのです。
サリム・イスマイル◎シンギュラリティ大学の創業メンバーの一人。学内のカリキュラムを統括し、同校のアンバサダーを務める。前職ではYahoo!のバイスプレジデントなど、7つの企業の立ち上げや成長に携わってきた。著書「Exponential Organizations」は米国でベストセラーとなった。
加治慶光◎アクセンチュア チーフ・マーケティング・イノベーター。ノースウエスタン大学ケロッグ経営大学院にてMBA修了。日本コカ・コーラ、ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント、日産自動車などを経て、2016年東京オリンピック・パラリンピック招致委員会にエグゼクティブ・ディレクターとして出向。日産に帰任後電気自動車LEAFの世界導入に参画。内閣官房官邸国際広報室参事官を経て、現職。
谷本有香◎Forbes JAPAN副編集長。証券会社、Bloomberg TVで金融経済アンカーを務めた後、2004年に米国でMBAを取得。その後、日経CNBCで同社初の女性コメンテーターとして従事し、2011年以降はフリーのジャーナリストに。著書に「何もしなくても人がついてくるリーダーの習慣」などがある。