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日本と世界の「教育のこれから」

(c)Saint Ann’s School

成績表をつけず、生徒一人一人の長所を伸ばすことだけに注力すること50年。その結果、卒業生の3割以上がアイビーリーグに、ほぼ半数がスタンフォードやタフツなどを含む“名門校”に進学する不思議な学校がある。数値で評価しない教育の秘密を探りに、ニューヨークにある同校を訪ねてみた。

10をつけた瞬間に成長が止まる

Saint Ann’s Schoolは、マンハッタンから20分ほどのブルックリンの街中にある。1965年に創設されて以来、一度も生徒たちの成績表に数値で評価をつけたことがなく、学期中のアセスメント(小テスト)にも決して点数をつけることがない。

それなのに、卒業生の多くが全米の著名大学へ進学。さらには、入学してからも積極的に教授達のオフィスアワーを活用するなど、知的探究心を持つ人間に育つともっぱらの評判だ。今回はUpper Middle SchoolのAssistant Headを務めるKatie Haddock氏にインタビューする機会を得た。

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そもそもなぜ数値で人を評価しないのか。Haddock氏は、「生徒は一人一人個性があり、仮にテストの出来が違ったとしても、それは必ずしも能力の差ではない。学び方や表現力の違いだったり、情報の処理の仕方の違いだったりする。数値化することで彼らを直線上に並べて比べることには意味がない」と言う。

さらに、「人は往々にして、満点をとった瞬間に満足して成長が止まってしまう。しかし本来それはゴールではない。探究心と学びに終わりはない。常に成長の余地がある生徒達から、もっと深く知りたいという欲求を奪ってはいけない」とも。

これは大変にもっともな意見である。しかし実際問題、生徒達はどうやって学ぶべきことを学び、さらに学び続ける意欲を持ち続けられるのか? 

教員に最大限の権限を与える

もっとも重要なカギは、「教員に最大限の権限を与えることだ」という。実際に4年目の若手教員にもインタビューしたところ、「着任して言われたのは、『あなたは数学と物理を教えてください』ということと、カバーすべきトピックのことだけ。あとは任せます、と。それだけでした」と話す。嘘のような本当の話である。

この学校では、いわゆる教育学部を卒業した教員かどうかは重視していない。教える科目を専攻した人、その科目を知り尽くし情熱を持っている人を採用することを主眼に置き、必要があれば生徒への教え方は採用してから身につけてもらうスタイルだ。

一体どうやって? と聞くと、「学年主任と教科主任が、ほぼ毎週若手教員の授業を見学し、毎回10分ほどのフィードバックセッションをもつ。科目の内容については既に申し分のない知識を持ち合わせている人材ばかりなので、フィードバックの中心は授業の運び方について。生徒が送っていた微妙なサインを見逃していなかったか、どの言葉がクラスを盛り上げていたか、など教授法についての助言を伝えている」と教えてくれた。また、数週間に一度は、若手教員がベテラン教員の授業を見学しに行くという。

「それを繰り返す中で、自分なりのティーチングスタイルが確立されていくし、毎日どんな風に授業を進めるか考えるのが楽しい」と、若手教員は言う。究極のOn the Job Trainingといった感じである。

ただしHaddock氏は、正直にこうも打ち明けてくれた。「この学校は全ての人のためにあるわけではありません。教員も生徒も、自立心と好奇心が旺盛でなければ、学校が成り立ちません。でも学校の理念に沿った人だけを選べるのが私学の良さであり、そのアドバンテージを最大限に活かして特色のある教育をするのが私学の使命です」

文=小林りん

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