ビジネス

2017.12.15

「待つ」をポジティブに変える 新たな不動産価値の創造法

全国に点在する「まってるカフェ」が、ローカルの高齢者と若い旅行者が交差する拠点になるかも......。

放送作家・脚本家の小山薫堂が「有意義なお金の使い方」を妄想する連載第28回。フランスの絵本を翻訳した筆者が、「待つ」ことの意味を熟考。そこから生まれた、高齢者に生きがいを持ってもらえる住宅販売モデルとは?


このところユニークな不動産屋さんが増えてきた。その先駆けとも言えるのが、2003年にスタートした「東京R不動産」だろう。リノベーション物件をメインに扱い、いまでは東京だけでなく、金沢、神戸、福岡などエリアを拡大している。05年に運営を開始したシェアハウス専門の「ひつじ不動産」は、“シェア文化”が浸透した結果、昨年末に入居問い合わせ件数が20万件を突破したという。
 
最近だと、建築家の谷尻誠さんが「絶景不動産」を始めた。「素晴らしい景色を持ちながらも、建物を建てることができる敷地として認識されていない場所や、建築が存在することによって価値が顕在化する敷地など、設計という視点から敷地のポテンシャルを引き出す」というのがコンセプトだ。

土地はよく坪単価や住みたい街などで格付けランキングがされるけれど、借景も重要なポイントだと僕は思う。どんなにいい場所でも、窓を開けてビルの壁しか見られないならつまらない。逆に、小さな部屋でも窓の向こうに紅葉の美しい尾根や晴れ間に輝く波打ち際が広がっていれば、それだけで豊かな気持ちになる。

不動産屋さんではないが、サーファーハウスやガレージハウスなど西海岸の香り漂う家や店をデザインする「カリフォルニア工務店」という会社もある。今年7月、弊社は宮崎県のサンビーチ 一ツ葉(ひとつば)沿いにあったライフセイバーの監視塔を再利用するプロジェクトに参加し、ハンバーガー店を企画。カリフォルニア工務店に店舗デザインを依頼したところ、西海岸のビーチハウスを彷彿とさせる「ザ・ビーチ・バーガー・ハウス」が誕生した。

白を基調とした店内、海からの潮風が通り抜ける開放的な空間は、ローカルにとっても観光客にとっても魅力的な名所となるだろう。僕もカリフォルニア工務店に頼んで湘南に家を建てようかなと思ったくらい、素敵な仕上がりだった。
 
ここから導き出されるポイントは何か? 「リノベーション」「シェアハウス」「絶景」「カリフォルニア」など、各社が他にはない特徴をひとつに絞ったことで、不動産価値を新たに創造できたということである。

哲学や思想が感じられる住宅とは?
 
僕自身、引っ越しは何回かしているけれど、家を決めるときのポイントは年齢によって変わってきた。昔はアクセスが大きかった。次に景色を重要視するようになった。いまは「風」が大事(笑)。ゴージャスな外観やインテリアよりも、いい風が流れるところに住みたい。終の住処をどこにするかも、わりとしょっちゅう考えている。重要なのはやはり人、つまりいい仲間が周りにいること。そしてやはり、いい風が流れるところがいい。ひとつだけワガママを足すなら、温泉があると最高なのだが。
 
住宅は外観や内装、場所だけで売れる時代ではなくなったと思う。住宅から窺える哲学や思想、つまり「住む人が何を思いながら暮らすのか」という視点でデザインされていることが、大切なのではないだろうか。
 
そういう視点で見て、僕がいま心惹かれる家は、ジャパネスクハウス「程々の家」だ。「日本の感性を大切にしながら、凝りすぎない。造りすぎず、飾りすぎない。」とコンセプトにもあるけれど、日本の粋を絶妙のバランスで追求している。なにより「程々」というバランスがよい。

現代は何でも極端なものが目立ったり、好きか嫌いか、◯か×の選択肢だけで物事を決めたりしてしまう傾向にある。でも、ひとつがダメだから完全否定するのではなく、完全だから絶対正解なのでもなく、もう少し多様性というか、曖昧や婉曲を愛する日本的な心というか、“程々感”を大切にしていくと、すごく安心できる空間を得られるような気がするのです。
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イラストレーション=サイトウユウスケ

この記事は 「Forbes JAPAN CxOの研究」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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