放送作家・脚本家、「くまモン」の生みの親。

放送作家・脚本家の小山薫堂が「有意義なお金の使い方」を妄想する連載第58回。20代の若者が経営する京都の銭湯「梅湯」。月2回発行される梅湯新聞を湯に浸かりながら読んで、筆者が腑に落ちたこととは?


京都・五条に「梅湯」という銭湯がある。明治時代の創業で、廃業寸前だったのが、2015年にリニューアルオープン。いまでは近所の常連客はもちろん、夜行バスで京都に来た観光客や朝まで飲み明かした若者たちが、週末の朝風呂を浴びにくる。

再生させたのは、現在「銭湯活動家」との異名をとる湊(みなと)三次郎さん。もともと学生時代に梅湯でアルバイトをしていたそうで、前経営者から廃業すると聞き、勤めていた会社を辞めて、24歳で引き継いだ。睡眠時間を削ってひとりで切り盛りしているうち、同世代がボランティアで掃除を手伝ってくれたり、銭湯での音楽イベントが取材されお客さんが増えたりして、なんと数年で黒字経営に。現在は自ら率いる「ゆとなみ社」で、滋賀県大津市の「都湯」「容輝湯」、京都市上京区の「源湯」の計4軒を経営中だ。

湊さんを中心に若者たちが懸命に誠実に梅湯の経営に携わっていることは、接客や行き届いた掃除、常連客の多さ、そして月に2回発行される「梅湯新聞」からもじわりと伝わってくる。新聞はいまどきアナログな手書き文字で書かれ、ラミネート加工されて湯船のそばの壁に貼られているので、風呂に入りながら読むことができる。内容はといえば、若者たちの日々のたわいもないことばかりだが、味わいのある文字や絵に心がほっこりする。

その梅湯新聞で最近いちばん心打たれたのが、湊さんが書いていた京都市長選挙の話だ。選挙が近づいてきたころ、彼はまず「投票率がこの5期でダダ下がりしています」「みんなで選挙に行きましょう」と訴えた。それが次の号ではこんなメッセージに進化していた。

「ただ言うだけでは何も変わらないと思い、自分ができること考えました」「京都市長選挙の投票時にもらえる投票済証を持参した人にワンドリンクプレゼントします(130円まで。ぜんぶ僕が自腹で出します)」。

選挙に対する揶揄や攻撃や諦念がネット上にあふれる昨今、逆に選挙に行くための前向きなアイデアを提示し実行する湊さんの姿勢に、僕は素直に感動してしまった。

いまの時代に非常に難儀な銭湯経営をここまで成功させている理由は、この湊さんの姿勢、生き方にほかならない。やはり、自分らしいオリジナルの価値やアイデアで社会に貢献したいと思って仕事をしている人にはエールを送りたいと思うし、サポートしたいという気が起きるのだろう。

イラストレーション=サイトウユウスケ

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