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文化放送プロデューサーㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

Pla2na / shutterstock

少し前のことになるが、あるインタビューがSNS上で炎上した。

物議を醸したのは、この夏にシルバー世代向けの男性誌の創刊を控えていた編集長へのインタビューである。「ちょいワルオヤジ」などの流行語を生んだこともあるこの名物編集長は、創刊号で「きっかけは美術館」という企画を予定しているとし、美術館は女性と出会うのにもってこいの場所であると力説。一人で熱心に鑑賞している女性がいたら、さりげなく「この画家は長い不遇時代があったんですよ」などと話しかけ、自然に会話が生まれれば、流れで絵を鑑賞し終わった後もスマートに食事に誘える、というようなことを述べていた。

他にもセクハラと指摘されても仕方ない話題が含まれていたせいだろう。案の定このインタビューはSNS上で盛大に炎上した。中には編集長があえて炎上を狙ったネタでは? と穿った見方をする人もいたが、バブルを謳歌した世代の派手なおじさんたちをたくさん見てきた身からすると、あの発言は本気だと思う(あまりに無邪気で不用意だが)。

インタビューが掲載された週刊誌を読んだとき、「やっちまったな」と思わず舌打ちが出た。もちろん炎上が予想できたこともあるが、それ以上にその時の私の心を占めていたのは、「なんて余計なことをしてくれたんだ」という感情である。

なぜなら私自身、美術館が大好きだからだ。わずかな料金であれほど贅沢な時間が過ごせる場所はない。これまでいくつも心に残っている美術展があるし、ここだけの話(ホントにここだけの話だ)、仕事をサボって逃げ込む場所としても美術館はうってつけである。

なのにあんなインタビューが世に出てしまった後では、もう気軽に美術館に足を運べないではないか。男性の一人客なんて明らかに怪しまれてしまうはずで、もっとよく観たいと作品に近づいただけなのに、たまたま側にいた女性にキッと睨まれたりしたら、いったいどうその場を取り繕えばいいのだろう。あの空間は逃げ場がない。その場でさりげなく屈伸運動でも始めろというのか。いや、もっと怪しいだろうそれ。

ところがここ最近、美術館を訪れる顔ぶれが明らかに変わったという話を思わぬところから知った。編集長のインタビューを読んでその気になったおじさんたちからかって? まさか。安心して欲しい。そういうよこしまな動機をもった連中ではない。いま美術館に熱心に足を運んでいるのは、グローバル企業などの幹部やその候補生たち、いわゆる「エリート」たちなのである。

『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 経営における「アート」と「サイエンス」』山口周(光文社新書)によれば、ニューヨークのメトロポリタン美術館やロンドンのテート・ギャラリーのような大型美術館で開催されているギャラリートークの参加者の顔ぶれが大きく変わっているという。

ギャラリートークとは、キュレーターがギャラリーと一緒にアートを鑑賞しながら、作品の美術史上の位置づけや見どころなどを解説してくれる教育プログラムである。かつては観光客や学生でほとんどが占められていたのが、ここ数年は、グレースーツに身を包んだ知的プロフェッショナルと思しき参加者をよく見かけるようになったという。

イギリスのフィナンシャル・タイムズの記事(2016年11月13日)によれば、伝統的なビジネススクールへのMBAの出願者が減少傾向にある一方で、アートスクールや美術系大学によるエグゼクティブ向けトレーニングに多くのグローバル企業が幹部を送り込み始めているという。

事実、視覚芸術分野の教育で世界最高と評価されているイギリスのロイヤルカレッジオブアートのエグゼクティブ向けプログラムには、自動車のフォードやクレジットカードのビザ、製薬のグラクソ・スミスクラインといった名だたる企業が名を連ねている。

なぜ、世界のエリートの間でこのような変化が起きているのか。

本書はその理由を明晰に解き明かし、いま世界で進行している変化の見取り図を与えてくれる、きわめて有意義な一冊だ。

なぜ、世界のエリートは「美意識」を鍛えるのだろうか。それは、これまで有効に機能していた「モノサシ」が通用しなくなってきたからだ。その背景には、主に3つの大きな変化がある。

文=首藤淳哉

 

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