「キック」は、独創的かつ先進的なアプローチによってボットを運用している。フェイスブックなどと違うのは、十数社の企業や開発者と協力してボットを開発している点と、企業がキックのプラットフォーム上で完全に自動化されたボットのみを使っている点だ。
もっとも、キックの創業者テッド・リビングストン(28)は「キックのシェアはまだまだ」と認める。確かに、キックのアメリカにおけるアクティブユーザーは約800万人で、メッセンジャー(6,000万人)、ワッツアップ(1,200万人)、スナップチャット(2,000万人)に比べて少ない。だが、彼の当初の画期的な試みはライバル企業の手により、今のトレンドになっている。
実は、最初にチャットアプリをプラットフォーム化してゲームやブラウジングなどのサービスを提供できるようにしたのは、他ならぬリビングストン自身なのだ。WeChatやフェイスブックのメッセンジャーが登場する何年も前、11年のことだ。14年7月には西側諸国で初めて広告主向けのチャットボットをリリース。今では大手ブランド約80社がキックのチャットボットを使ってユーザーと“ぎこちない”会話を交わしている。
キックは現状では儲かっていない。金融リサーチ会社「プリブコ」によれば、15年の売上高は約3,000万ドル(スナップチャットは5,200万ドル)。最大の収益源は広告だ。約80社がキック上でチャットボットを構築しており、キックは成果報酬として1ユーザー当たり15セントを得ている。ツイッターと同じ仕組みだ。
13年初めごろからグーグル検索の人気は下降気味になり、フェイスブックのコアユーザー数が頭打ちとなっている中、メッセージアプリのユーザー数と滞在時間は拡大している。ポルテオ・リサーチによれば、世界でメッセージアプリを定期的に利用している人は現在、21億人を超える。キックにとっては好機到来といったところだろう。
キックの強みはユーザーの年齢層だ。50%が10代で、アメリカの10代の40%がキックを利用している。10代はモバイルにとって最大のターゲットであり、彼らの行動パターンは、今や世界の最先端である中国のモバイルユーザーの動向と共通している。中国ではデスクトップから買い物をする人は皆無で、最初からスマートフォンでウェブを閲覧する。ボットでも世界をリードするのは中国になるだろう。
その中国で、キックの強力な助っ人が現れた。同社は15年8月、WeChatの生みの親であるテンセントとの提携を発表。テンセントはキックの株式5%を5,000万ドルで取得したのである。これによりキックの評価額は10億ドルに達した。リビングストンは「“西のWeChat”になるための快進撃が始まった」と満足げだ。