銀行にはメリットが多いアップルペイ
第一に、アップルペイは現地の多くの銀行と提携している。アリペイやWeChat Payは銀行のネットワークに依存しないため、銀行側は手数料を徴収出来ない。さらに、銀行にとって痛手なのは、eコマースにおいて極めて価値の大きい取引データを入手できないことだ。こうしたことから、中国の銀行にとってアップルペイを後押しすることは、モバイル決済での出遅れを取り戻す最後のチャンスだと言える。
銀行がアップルペイを普及させるために取り得る対策の一つが、消費者が外部の決済プラットフォームへ送金できる金額の下限を引き下げることだ。例えば、中国工商銀行(ICBC)はアリペイへの送金額を月5万元(約8万7000円)に制限している。これは預金の流出を防ぐためだが、今後は利用を促すために制限を1万元以下に引き下げることも十分にあり得る。
規制強化でライバルが淘汰の可能性
二つ目の理由は、電子決済に対する監督強化の動きだ。これまで電子決済に関する規制は緩く、非銀行系のモバイル決済事業者は決済ライセンスの取得が義務付けられているのみだった。今年はライセンスの更新期に当たるが、中国政府が業界再編を促すことを目的に更新要件を見直す可能性がある。アリペイが事業を継続できなくなることはまずないだろうが、既存の事業者の中には更新が認められないケースが出てくるかもしれない。
これに加え、PBOC(中国人民銀行)は電子決済の利用限度額を年間20万元とする新たな規制を今年初めに設けた。海外への資本流出を抑える以外に、銀行保護も目的だと思われる。オンライン決済をめぐる安全性や違法な資金の流れに関する問題が指摘される中、年内に新たな規制が追加される可能性もある。
こうした一連の規制強化の動きがどのような影響をもたらすかは未知数だ。規制当局は金融業界におけるイノベーション促進とリスク管理のバランスを取るのに苦慮しているように見え、行き当たりばったりの動きが目立つ。これまでは規制が緩かっただけに、監督強化の動きはアリペイやWeChat Payにとっては痛手となり、逆に銀行やユニオンペイ(中国銀聯)、さらにはアップルペイにとっては追い風になる可能性が高い。