米国のZ世代とミレニアル世代は、学生ローンの負債を抱え、就職難にも直面して困難な日々を送っている。働いてはいても、単発・短期の仕事で糊口をしのいでいるという人も多い。このままでは実家を出て独り立ちできないのではないか、結婚して家庭を持つなど夢のまた夢だと不安にさいなまれながらも、彼らは「人生は一度きり」だとうそぶき、心に残る体験にお金を払う「コト消費(体験消費)」には糸目をつけない。
4月20日(米国時間)に閉幕した世界最大級の米野外音楽フェスティバル「コーチェラ」でも、このカルチャーシフトが鮮明に表れた。財布の心配よりも体験を楽しむことを優先し、「今買って後で支払う」という意味の後払い決済サービス「Buy Now Pay Later(BNPL)」を利用して高額チケットを購入する参加者が急増したのだ。
生活の苦しいZ世代は、遠い未来の目標を見据えて貯蓄することに価値を見いだせず、35歳までに持ち家を手に入れたいと考えている人はわずか26%にとどまる。一方、音楽フェスなら「その場で」満足感を得られる。そしてBNPLを活用すれば、手元にお金がなくてもそれが叶うのである──たとえ、月々200ドル(約2万8500円)の出費がのちにかかるとしても。
この傾向はミレニアル世代を中心に広がる「YOLO経済」にも通じる。YOLOとは「人生は一度きり(You Only Live Once)」の頭文字をとった造語だ。ミレニアル世代の実に60%が、必需品を買うのを控えてでも「コト消費」にお金をかけると調査に答えている。
しかし、そこには落とし穴がある。BNPLに頼りすぎると、失業したり緊急事態に見舞われたりした場合に借金漬けになるおそれがある。米消費者金融保護局(CFPB)は、決済サービス提供者が債務不履行を通告すれば、遅延損害金(遅延利息)を課せられたりクレジット・スコアが低下したりする「隠れたリスク」があると警告している。
コーチェラでは債務不履行が発生することはそうないが、チケット購入にかかる手数料収入だけで400万ドル(約5億7000万円)を稼ぎ出す運営元の手法をめぐっては、ファンの「取り残されることへの恐怖感(FOMO)」に付け込んでいるとして、倫理的な問題を指摘する声もある。