ベビーブーマー世代(1946〜1964年に生まれた世代)の両親は、金銭面で保守的に暮らし、長年収入を積み重ねてきた。子どもたちは、相当な額の財産を残してくれると信じたいかもしれない。
しかし、多くの成人した子どもたちは大いに失望するだろう。資産を堅実に守ると考えられてきたベビーブーマー世代は、単に遺産を残すのではなく、今まさに自らの富を楽しむために使っている。旅行などで得る経験を優先し、相続のために貯蓄するよりも自分たちの時間を充実させることに重きを置いている。
「大規模な資産移転」が、ある意味において現在進行している。しかし多くの人、特にベビーブーマー世代の成人した子どもたちが思い描いていたものと異なる展開になっている。ベビーブーマー世代はリタイア後の資産管理におけるルールを塗り替えつつあり、ただ子どものために資産を貯め込むのではなく、むしろ意外な計画を実施しようとしている。つまり、ある程度の時間をかけて富を次世代に残す準備は続けつつも、現在の暮らしを豊かにするために資産を使っているのだ。
多くのベビーブーマー世代は、MoneyWise によれば「ゼロで死ぬ(Die with Zero)」という哲学を支持している。2024年のNorthwestern Mutualの調査では、ベビーブーマー世代のうち子どもに遺産を残すと答えた人は約22%にとどまるという。広がりつつあるこの「ゼロで死ぬ」という考え方は、リタイア後に資産を使い切る方針を奨励し、従来のように多額の遺産を守り続けようとはしない傾向を示している。Charles Schwabの調査によれば、米国の高額の資産を保有するベビーブーマー世代は、子どもたちに資産をすぐ譲ったり死後に残したりするよりも、自分たちのために使いたいと考えている。
ベビーブーマーが資産を手放さない理由
ベビーブーマー世代の姿勢は冷たく見えるかもしれないが、それにはいくつか正当な理由がある。まず、医療費の上昇という大きな懸念がある。Fidelityの推計によると、65歳の人はリタイア後に合計16万5千ドル(約2350万円)以上を医療費に費やす可能性があり、長期の介護費用は年間6万4千ドル(約911万円)を超える場合もある。
依然としてインフレ率が高くや生活費の上昇もあって、日々の支出を賄うために貯蓄を切り崩さざるを得ない状況になりやすく、その分、相続に回せる額が減る可能性がある。また、平均寿命が伸びて80代、90代まで生きる人が増える中、貯蓄が底を突くことに対して恐れを抱く人も多い。