OpenAIのCEOであるサム・アルトマンが、ある朝Xに投稿したポストは、人工知能(AI)コミュニティの外ではほとんど注目されなかった。「People love MCP and we are excited to add support across our products(みなさんMCPが大好きですね。私たちも自社のあらゆる製品でサポートを追加することを楽しみにしています)」と彼は書いた。見たところ単なる技術告知にすぎないように見えたが、実際には並々ならぬ意味合いをもっていたのだ。
people love MCP and we are excited to add support across our products.
— Sam Altman (@sama) March 26, 2025
available today in the agents SDK and support for chatgpt desktop app + responses api coming soon!
アルトマンの発言は、熾烈を極めるAI開発の世界では異例のことだ。ChatGPTを開発し、世界有数のAI企業であるOpenAIが、直接の競合企業が策定した標準規格「Model Context Protocol(モデル・コンテキスト・プロトコル、以下MCP)」を採用すると発表したのだ。しかも、その競合企業とは、組織方針の違いが原因でOpenAIを離職した元研究者たちが設立したAnthropic(アンソロピック)なのだ。
AIと外部世界をつなぐ、オープンなプロトコル「MCP」
MCPという名称は、一見すると平凡に聞こえる。しかし、この三文字には、人工知能とデジタル世界の関係を根本から変え得る新たな考え方が込められている。
アンソロピックの公式説明には、こうある。「MCPは、LLMアプリケーションと外部のデータソースやツールをシームレスに統合するオープンプロトコルです」。簡潔すぎる定義で分かりにくいが、その狙いはAIの視野を劇的に広げることにある。たとえばインターネットが普及する前は、各コンピューターは自分のハードディスクにあるデータしか扱えなかった。現在多くのAIシステムも同様で、学習済みデータの範囲に縛られ、特別な実装がない限りそれを超えた情報にはアクセスできない。

アンソロピックの最高プロダクト責任者マイク・クリーガーは、より平易に「LLMは、すでに持っているデータや普段使っているソフトウェアに接続されるときにこそ最大限に役立ちます」と説明している。これこそMCPが解決しようとしている本質であり、AIが外部世界とやり取りするための標準化された「言語」を用意することに意味があるのだ。
なぜ「MCP」が重要だといえるのか?
なぜこれが重要なのかを理解するためには、「知性」が孤立して存在するとどうなるかを考える必要がある。
例として、アンソロピックが開発する先進的大規模言語モデルClaude 3.7 Sonnetや、OpenAIの旗艦マルチモーダルAIシステムGPT-4oを考えよう。いずれも非常に高度で、人間に匹敵するテキスト生成や複雑な課題解決、微妙なニュアンスを伴う対話が可能だ。しかし、その高い能力にもかかわらず、カスタム統合を用意しない限りはユーザーのファイルや企業データベース、個人情報に直接アクセスできないという根本的な制限がある。
これは不便なだけではなく、AIの可能性を大きく制限している。たとえるならば、極めて優秀なコンサルタントがいても、必要な資料やシステムに自力でアクセスできず、常に仲介者を介さなければならないようなものだ。
実際、アンソロピックが2024年11月にMCPをオープンソースとして発表した際に、「AIアシスタントは情報のサイロやレガシーシステムの背後に閉じ込められています」「あらゆる新しいデータソースごとに固有のカスタム実装が必要となり、真に連携したシステムの拡張は困難になっています」と述べている。