職場で何かを頼まれたときに「ノー」と言って断ると、綱渡りをしているような気持ちになるかもしれない。なぜなら、多くの人は「一緒に働くのが難しい同僚」というレッテルを貼られないようにして、ほどよいバランスを維持したいと考えているからだ。
とはいえ実際は、精神状態を良く保つためにも、プロフェッショナルとしての健全な存在感を維持するためにも、「ノー」と断るタイミングとうまい断り方を理解することは不可欠だ。それでも多くの人は、協調性がないとか、チームの一員になりたがらないなどと思われることを恐れ、「ノー」と言うことを躊躇してしまう。
時には「イエス」と言って引き受け、ストレスについては後で考えるというやり方が簡単に見えることもある。しかしそうして応じていると、あっという間にいろいろなことが重なり、ふと気がつくと自分のためにもならず、目標達成にも役立たない仕事に忙殺されることになってしまう。
幸いにして、相手との関係を損ねることなく「ノー」と断ることはできる。ポイントは、明快さと自信を適切に組み合わせることだ。5つのシナリオを紹介しよう。
1. 自分の仕事で手いっぱいのとき
シナリオ:上司から追加の業務を頼まれたが、現在進行中の仕事の納期でパンク寸前だ。
プロフェッショナルとしての返答:「このプロジェクトについて私を検討してくださり、ありがとうございます。目下、(別の)〇〇プロジェクトに全力を挙げており、質を落とさないよう努めているところです。ご依頼の業務が優先であれば、そのための余地をつくれるよう、現在のタスクのうちどの優先順位を下げ、どれを繰り延べるべきか、相談に乗っていただけますか」
この答えが効果的な理由は、責任感があることを示していることだ。貢献したいという意欲を強調しながら、現在の作業量へと話をもっていっている。追加業務をきっぱり否定することなく、優先順位をめぐる話し合いを促している。
2. 同僚から「仕事を手伝ってほしい」としょっちゅう頼まれるとき
シナリオ:同僚から手を貸してほしいと頼まれて、自分の業務が中断されることが多々ある。
プロフェッショナルとしての返答:「時々なら喜んで手を貸すけれど、いまは自分の納期が目前に迫っていてね。スケジュールが空いた後なら、君の案件について一緒にひと通り確認する時間を取れると思うよ。あるいはそれまでのあいだ、〇〇(推薦するリソース)をトライしてみるというのはどうかな」
こう答えれば境界線を明確に引きつつ、協力したい、力になりたいという思いも示しており、そっけなく拒否されたという印象を相手に与えずに済む。自分自身の責任を優先させたい、ということを明確にする答え方だ。
3. 出る必要のない会議に呼ばれたとき
シナリオ:自分の職務や優先事項に合致しない会議に出席するよう求められた。
プロフェッショナルとしての返答:「会議に呼んでいただいて感謝しています。自分の時間をできるだけ効率的に使いたいので、その会議で私の意見がどのような点で必要となるのか、具体的に教えていただけますか。私の意見が必要でない場合は、出席は見送って終了後に議事録を確認します」
こう答えれば自分が時間を計画的に使っていることを伝えつつ、重要な案件について情報を確認し、関与していきたいと心から思っていることも表現できる。