日々膨大な情報が飛び交う世界で、私たちは大量の情報に埋もれながら移動している。しかし、その流れの中で、本当に求める体験との出会いが阻まれているのではないか。SXSW 2025の地、テキサス州オースティンでは、その疑問に挑む革新的なサービスが登場した。
井口尊仁氏。AR技術を活用した「セカイカメラ」を生み出し、日本のスタートアップがSXSWに挑戦する可能性を広げた発明家は、次なるビジョンとして「移動」に着目した。京都で立ち上げた一般社団法人Tomorrow Never Knowsを通じて、京都大学の仲間たちと開発したAIナビゲーションアプリ「timespace(タイムスペース)」を引っ提げ、京都府ブースの一員としてSXSW 2025に挑んだ。
「今回の挑戦は、ある意味でリベンジなんです」と井口氏は語る。2020年3月、オースティンでのSXSWは開催直前で中止された。新型コロナウイルスの影響で、史上初めてSXSWが断念された年だった。井口氏は当時、オーディオソーシャルアプリ「ダベル」普及のため単身オースティンに渡っていた。視覚障がい者協会と連携し、音声で人々をつなげる取り組みを進めていたが、その成果を披露する機会は奪われた。悔しく忘れられない経験だったと井口氏は振り返る。
その想いを胸に、再びSXSWの地に戻ってきた彼が手にしていたのがtimespaceだった。このアプリは、ユーザーがその時その場で最適な体験と出会えるよう提案するAIサービスだ。Google MapやYelpが事前の目的地検索を前提とするのに対し、timespaceは「歩いているうちに出会う偶然」を重視する。
井口:「timespaceは、人の感性を起点に都市を再編集する『移動体験エンジン』です。ユーザーの感覚的なインプットをプリファレンスとして読み取り、都市のPOI(Point of Interest / 行き先、以下POI表記)をLLMで文脈的に解釈・再構成し、その場に最適化されたルートを提案します。街を歩くことで、風景や人との偶然の出会いを積み重ねる。そんな体験こそが、移動の本質だと思うんです」