井口氏の視点を通して見えてくるのは、京都だけでなく、日本各地に「偶発性を宿す都市」が数多く存在しているということだ。都心を歩けば、坂道一つひとつに歴史や物語があり、少し地方に足を延ばせば、街角の和菓子屋や惣菜屋、お地蔵様にも、日本ならではの美しさや文化の奥行きがひっそりと息づいている。
これまでの移動体験は、Google Mapやレビューサイトの評価に依存し、効率や点数を軸とした最短ルートを選ぶことが常だった。その結果として、地域に根ざした豊かな魅力が見過ごされてきた。しかし、timespaceのようなサービスがあれば、そうした価値を拾い上げ、「偶然との出会い」や「意味のある寄り道」を通じて、日本の魅力をより深く、そして広く伝えることができるのではないか。
この挑戦は、単なるアプリの話にとどまらない。timespaceが目指すビジョンは、日本のローカルな魅力を世界へ届けるための壮大な試みであり、その意義は私たち一人ひとりの足元にもつながっている。この記事を読んでいる方にも、きっと“伝えたい地域の魅力”があるはずだ。実際同じアルゴリズムでプロトタイプされた東京(渋谷)と京都(左京区)はこのような文化的な文脈を解釈したLLMによる新しい街の体験を作り出そうとしている。京都においては京都市とIBMが組んだ「IBM BlueHubプログラムin Kyoto」によって、その体験をブラッシュアップさせようとしている。
渋谷:https://d0kid0ki.com/timespace/shibuya_explorer.html
京都:https://d0kid0ki.com/timespace/kyoto_cultural_walk.html
私たちはAI時代において、仕事、教育、創造、そしてコミュニケーションなど、あらゆる領域で再定義を迫られている。移動もまた、その例外ではないことを井口氏 / timespace の挑戦から感じる。「巨人たちの後追い」にとどまる保守的なAI議論だけでは、ブレークスルーは起こせない。そして、timespaceが取り組む挑戦は、私たちが日本の魅力を再編集し、世界へと届けるための、新たな選択肢となるはずだ。