【重要なお知らせ:当社を装った偽サイトにご注意ください】

テクノロジー

2025.04.05 10:15

AIと感性が紡ぐ“移動”の再定義 ~ 井口尊仁 SXSW 2025挑戦記

AIナビアプリ「timespace」とは

さて、ここでtimespaceについて紹介しよう。timespaceは都市空間における「意味のある偶然」を引き出すことを目的に設計されたAIナビアプリだ。ちょっとした空き時間に、その人にとって今この瞬間に最適な行き先を瞬間的に提案してくれる。

主な特徴は以下の2つの機能に集約される:

・「ディスカバリー」機能
Tinderのような直感的なUIで、現地の魅力的なスポットをスワイプ形式で提案。ユーザーの嗜好性を学習することで、よりパーソナライズされた推薦が可能に。

・「プランニング」機能
ユーザーの嗜好、現在地、空き時間に応じて、最適なルートと目的地を提案。自動的にスケジュールを構成し、ストレスの少ない移動体験を生み出す。

このアプリは、従来の効率重視の移動を超え、「偶然性」や「都市との対話」を重視することで、移動そのものを再定義しようとしている。

井口:「単なるナビゲーションではなく、文化や感情のレイヤーを汲んで、都市にアクセスし直す試みとも言えます。街を歩くことで偶然の機会で、風景や様々な場所、人との出会いから何かを受け取る…そんな体験の積み重ねこそが「移動」の本質だと感じます。京都に拠点を移したこともtimespaceを生み出すのには良い環境でした。街を歩くことそのものが、そのままその日その時の独自の物語になるような場所です」

SXSW 2025での「timespace」の手応えと焦り

SXSW 2025で、井口氏はtimespaceを展示、プレゼンするだけではなく、テキサスオースティンの地で多くの実証実験も重ねたという。京都で生まれたtimespaceはどのようにSXSWで受け入れられたのか?

井口:「 オースティンでは、地元の方々が「こんな場所があったのか?」と驚きながらtimespaceを体験し、新たな土地の魅力を発見してくれていました。自分が暮らす街ですら、まだ出会っていない体験が眠っている。日常の中に未知を見出すことができる世界を、AIと都市情報の再構成によって実現できる可能性に手応えを感じました。

今後timespaceをさらに充実させていくためには、単なる案内ツールに留まらず、POIそのものの絶対数を桁違いに増やしていくという構造的変化が必要だと考えています。timespaceはその引き金となり、最終的には既存のデジタルマップ体験そのものを塗り替えることを狙っています」

彼の手応えの背景には、現地で得た多くの実証機会とリアルなフィードバックの積み重ねがある。SXSW滞在中には、本編の出展にとどまらず、街中のさまざまな場所で実験を行い、多様な反応を得ていた。中でも最も印象的だったのが、米国人起業家・Nandanとの偶然の出会いだ。Airbnbでたまたま同じ宿に滞在していた彼との対話は、timespaceのコンセプトをブラッシュアップする上で大きなヒントとなったという。

井口:「彼がtimespaceをただのナビアプリではなく、『その人らしい時間の過ごし方をAIが即時にプログラムするツール』と受け止めてくれたことは、大きな手応えでした。その中で出てきたキーワードが『コンフィデンス × アドベンチャー』です。安心感のある場所(コンフィデンス)と、少しの未知へのワクワク(アドベンチャー)が共存する体験こそが、理想的な都市探索だと確信しました。また、プロダクトの進化において特に重要だったのが『SMALL TIME(ちょっとした空き時間)』という視点の発見です。観光名所や目的地だけでなく、予定と予定の間に発生する時間の編集が、真にユーザーに寄り添う体験を生むのです。

例えば、オースティンの地元のスーパーでその街の暮らしを感じたり、路地裏のベンチで猫と過ごす数分間。そういった都市の余白にこそ、timespaceが本来案内すべき体験があると気づかされました」

とはいえ、井口氏はSXSWで焦りも感じたという。

次ページ > AI後進国・日本での伝わらなさと失意

文=西村真里子

ForbesBrandVoice

人気記事