経済・社会

2025.03.31 14:15

日本初の一冊「マイクロファイナンス」で貧困に挑んだ11年の記録

五常・アンド・カンパニーの共同創業者、慎泰俊氏

━━マイクロファイナンスとは何か、という歴史的プロセスも印象的でした。特に、ノーベル平和賞を受賞したグラミン銀行のモハマド・ユヌスら第1世代と、第2世代の代表としてインドで大きな成功を収めたヴィクラム・アクラによる2010年の議論を紹介されています。同じマイクロファイナンスでありながら、世代間の議論は噛み合わず、アクラが「聖職者とディベイトしているようだった」と語った話は、歴史的経緯を知る上で非常にわかりやすいです。
 
第一世代は国際機関などの寄付に頼ることができた経緯があり、第2世代は世界的なベンチャーキャピタルやプライベート・エクイティから出資を受けて、毎年ROE20%をだせるビジネスモデルとして確立させている。寄付に頼れない時代のあり方として第2世代の方法論も理解できます(注・同書のなかで慎泰俊氏がアクラ氏本人にその後の失敗の経緯とその要因を聞いている)。
 
NPO的な手法と商業的な手法には歴史的に違いがありますが、私はその2つの「間」にいるべきだと思っています。この「間」というのが、インパクトスタートアップが目指すべきところだと思いますが、それにはきちんとした「方法論」が必要と思っています。その方法論を示すうえでも、日本語で読めるまとまった一冊があった方がいいと思いました。それが執筆の動機のひとつです。
 
また、私は次男坊なのですが、次男というのは長男がやらかした「しくじり」を見られるポジションなんです(笑)。マイクロファイナンスについては欧米が早くから投資してきて、日本は遅れていると言われていました。しかし、欧米が失敗をしてきた過去を日本は学ぶことができる。
 
日本企業や日本人が投資するケースも非常に増えており、インパクトという領域が日本で盛り上がっています。ただ、理解の解像度が粗いままだと、せっかくの意志が生かされないので、過去の経験を踏まえて「今から投資するには」という視点を入れています。
 
━━途上国で仕事を始める時、その国の低所得層である人の家に慎さんが泊めてもらう話があります。その意図について、私は「肌感覚で知る」という程度に理解していたのですが、本書を読むと、生活のなかからその国の経済構造を慎さんが読み取っているのだなと知りました。
 
「途上国の農村に暮らす人」というと、おそらく多くの人が「かわいそうな写真」を思い出して、そういうイメージを抱くと思います。でも、実際は全然違います。基本的に私たちと同じ人間です。大きな違いは、生きていくうえで与えられた条件が違うという点です。条件が違うため、行動が異なります。ただ、誰もが同じなのは、生きるための最善の方法を選択しているという目的です。
 

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文=藤吉雅春

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