経済・社会

2025.03.31 14:15

日本初の一冊「マイクロファイナンス」で貧困に挑んだ11年の記録

五常・アンド・カンパニーの共同創業者、慎泰俊氏

五常・アンド・カンパニーの共同創業者、慎泰俊氏

「12年前に田原総一朗さんのインタビューで、民間版世界銀行をつくると私は言っていたのですが、当時は、それがどのような姿になるかまだ見えていませんでした。その後、今の会社を創業して11年がすぎ、今回ようやく民間版世界銀行設立宣言として、この本を書いてみました」
 
そう話すのは、五常・アンド・カンパニーの共同創業者、慎泰俊氏である。同社は東南アジア、南アジア、中央アジア、アフリカなど13カ国でマイクロファイナンスの事業を展開し、グループ全体の顧客数は240万人。連結営業貸付金は1200億円を超えた(いずれも2024年3月時点)。創業は2014年だから、たった10年で世界トップクラスのマイクロファイナンス事業者に成長したことになる。同社には丸井グループ、三井住友フィナンシャルグループなど日本の出資者も多い。
 
そして五常・アンド・カンパニー(以下、五常)を語る際に外せないのは、インパクトスタートアップと呼ばれている点だ。
 
インパクトスタートアップとは、「社会課題の解決」を成長のエンジンと捉えて、持続可能な社会の実現を目指すスタートアップである。五常は2023年にForbes JAPAN起業家ランキングで1位になった。五常のみならず、医療、再生可能エネルギー、宇宙などの分野で課題解決を目指すインパクトスタートアップ企業は増えている。2019年以降、起業家ランキングのトップになるケースが多い。
 
一方、資金面で支える日本のインパクト投資残高を見てみると、2023年は前年比で2倍の11兆5414億円。2020年と比較すると規模は10倍にまで増えており、日本の市場は世界的に見ても驚くほど急拡大している。日本は特異なポジションを築いているといえるのだ。
 
事業がマイクロファイナンスと聞いて、「ああ、発展途上国の話ね」と遠い世界の他人事に思われがちだが、五常がお金へのアクセス(金融包摂)で機会平等の世界を開拓しているように、同時にインパクトへの理解も拡大させている。多くの人々に「行動変容」をもたらしている点は、注目に値するだろう。

創業者の慎泰俊氏は、この3月に『世界の貧困に挑む マイクロファイナンスの可能性』(岩波新書)を上梓。世界を飛び回り、「金融包摂」に携わってきた慎泰俊氏が見出した「答え」とは何か。その気づきへの道のりを聞いた。
 

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文=藤吉雅春

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