━━なぜ今、民間版世界銀行設立宣言なのか?
五常を創業する前、田原総一朗さんのインタビューで「世界銀行をつくります」と語った頃は、自分で言ってはみたものの、それが具体的にどういう姿にあっているのか、まだわかりませんでした。この10年、同僚たちとも「この仕事をやる意味とは何か」ということを議論してきました。各国で仕事をしてきて、「社会的意義あることができない」と痛感することも経験しましたが、10年がたち、ようやく答えが見えてきました。それが「各国でマーケットリーダーのポジションをとる」ということです。
なぜなら、金融業は規模の経済だからです。大きくなって儲からないと人が集まらない。人を集められないと、社会的に意義あることができない。世界各国の市場でマーケットリーダーになっているマイクロファイナンスのプレイヤーはいません。金融はいわゆるコモディティだから、最大手にならないといけないと痛感したのです。
また、途上国の政治経済はブレが激しく、その時その時の状況に左右されることが多い。一カ国でマイクロファイナンスをやっていると大きな痛手を受けることもありえます。だから、世界中で展開する最大手にならないといけないと考えたのです。
━━利益の最大化を目指すことで「イメージが違う」と言う人も出てくると想像しています。営利企業が貧困削減に貢献できるか? という問題です。このテーマに対する経緯も読み応えがありました。
社会的インパクトを志向する人々の中には、「スモール・バット・ビューティフル(小さくても素晴らしい)」を好む人も多いのは事実です。もちろん、高級ブランド品の世界では、そのロジックが通用し、大きな価値があります。しかし、顧客の生活向上に貢献しようとするには、使命感とともに株主や従業員の期待に応え続けることも重要で、常に事業改善と革新を続けるために、コスト構造やサービスの質をあげなければならない。これを実現するためには業界最大手になる必要があります。金融事業の場合は、サービスが素晴らしいから自然と業界最大手になるということはほとんどなく、最大手になるには資本調達や組織づくりなどが鍵になります。
なぜなら、金融事業は最大手企業にいい人材が集まり、規模の経済によって高い利益率を享受することができ、かつ、アイデアを具体的に事業化する能力も備わりやすいからです。
本書でも触れていますが、規模に関する洞察は、世界中の金融機関を観察しながら確信したことです。創出しているインパクトの総量(=インパクトを与えている人数×インパクトの大きさ)が最も大きいのは、業界最大手である場合が多いのです。