宇宙

2025.03.26 10:30

大西宇宙飛行士の船長着任する国際宇宙ステーション、いま問題が噴出している理由

大西氏が搭乗するクルー10(C)NASA

ボーイングは、スターライナーの開発費として42億ドル(約6300億円)の支援金をNASAから受け取っているが、開発遅延によってそのコストは大幅に超過し、その額は2024年10月時点で18億5000万ドル(約2775億円)に上る。昨年8月、ボーイングの新CEOにケリー・オートバーグ氏が就任した際、「民間航空機部門と防衛部門にリソースを集中させたい」と発言したことから、一時はスターライナーの開発部門が売却される可能性が報じられたが、その後、オートバーグ氏はこれを否定。ただし、NASAは2025年3月時点においてもスターライナーの今後の扱いを決定しかねている。

「友人」という名の折り鶴

いちばん右に座るのが大西宇宙飛行士。その手元には「ドルーク」と名づけられた折り鶴が見える(C)NASA
いちばん右に座るのが大西宇宙飛行士。その手元には「ドルーク」と名づけられた折り鶴が見える(C)NASA

大西氏がISS長期滞在ミッションに参加するのは2016年に続いて2度目。今回はISS船長(コマンダー)を務める。日本人としてISS船長を務めるのは若田光一氏(2014年)、星出彰彦氏(2021年)に続いて3人目。多国籍なクルーを束ねつつ、ミッションの進行管理やクルーの安全確保などに関して指揮を執る。大西氏の着任期間は第72次と第73次の長期滞在ミッションにまたがるが、船長を務めるのは後半の第73次。先行グループが乗るソユーズMS-26が地球帰還に向けてISSを離れる4月20日、その任に就く予定だ。

クルー10のメンバーは、大西氏のほかに米国人女性2名、ロシア人男性1名の計4人で構成される。3月15日に打ち上げられたクルー10が予定軌道に投入されたとき、大西氏は折り鶴を船内に浮かべた。これは機体が無重力状態になったことを知らせる「ゼロGインジケーター」と呼ばれるものだが、クルー10船長であるNASAのアン・マクレインが、その鶴に込められたメッセージをライブ配信で語った。

「これは日本の折り鶴をもとに、米国で作られた手編みの鶴です。名前は『ドルーク』、ロシア語で『友人』を意味します。折り鶴は平和と希望、癒しの象徴です」

「私たちは敵ではなく、楽観主義と、人類が本来持ち合わせた善意で結ばれています。敵になることはパートナーシップを築くよりも容易ですが、私たちクルー10のメンバーは平和に旅することを選び、すべての人の利益のために探検します」

ISSは国際的な宇宙サロンとしての役割を四半世紀にわたって果たし、その運用自体は極力政治と切り離されてきた。しかし、2014年にロシアがクリミアに侵攻してから現在に至るまで、米露の関係は複雑な状況にある。老朽化したISSは2030年までの運用が予定されているが、ロシアだけは2028年までの運用は確約するとし、他国との足並みがそろわない。また、アルテミス計画に参加せず、独自宇宙ステーションの建設を計画し、月面基地建設においては中国との協業をはかるなど、西側とは距離と取りつつある。

宇宙における国際バランスは、いま大きく変容しようとしている。大西氏が掲げた折り鶴は、その現状を危惧するものに他ならない。

編集=安井克至

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