宇宙

2025.03.26 10:30

大西宇宙飛行士の船長着任する国際宇宙ステーション、いま問題が噴出している理由

大西氏が搭乗するクルー10(C)NASA

当時のバイデン大統領は、遅くとも3月までに2人を帰還させることを約束したが、今年1月、トランプ大統領の側近になったイーロン・マスクがこれを批判。スペースXの主宰であるマスクは、クルードラゴンの臨時便を出すことをバイデンに提案したが、 その提案は拒否されたと主張した。しかし、バイデン側は後日、 その事実はないとコメントしている。こうしてブッチとスニの帰還問題は、新旧政権の攻防戦にまで発展した。

臨時便を提案したマスクではあったが、大西氏が乗る予定の新型機C213の開発は難航し、その打ち上げは2月から3月下旬、さらに4月下旬とスリップしていった。C213が打ち上げられて交代要員が到着しなければ、ブッチとスニを含むクルー9の4名は地球に帰れない。

この事態を受けてトランプ大統領はNASAとマスクに要請を出し、大西氏のチームが乗るクルー10の機材を、新型のC213から既存機「エンデュランス」に差し替えることになった。その結果、ISS滞在クルーの交代時期は1カ月半ほど前倒しされ、3月15日には大西氏のクルー10が打ち上げられ、その4日後の3月19日には、ブッチとスニが乗るクルー9がアメリカ湾に無事着水した。

ベテラン2人の活躍と、スターライナーの去就

NASA所属のブッチ・ウィルモア(左)とスニ・ウィリアムズ(右)。2人は通常のミッションよりもはるかに長い286日をISS船上で過ごした(C)NASA
NASA所属のブッチ・ウィルモア(左)とスニ・ウィリアムズ(右)。2人は通常のミッションよりもはるかに長い286日をISS船上で過ごした(C)NASA

ブッチとスニのミッションは当初8日間が予定されていたが、 結果的に9カ月間におよんだ。ただし、2人はNASAきってのベテラン宇宙飛行士である。イレギュラーな着任ではあったが、その間にスニはISS船長、ブッチはフライトエンジニアに任命され、多種多様なタスクをこなしながら船外活動にも臨んだ。その結果、スニは自身の船外活動の累計時間を更新し、女性宇宙飛行士として最長の62時間を記録。これはNASAの全飛行士においても歴代4位にランキングされる。

地球への帰還を目前に控えた3月4日、 2人はISS船上で報道陣のインタビューに応じた。そのなかでブッチはトランプ大統領とマスクに感謝の意を表したうえで、「(私たちのミッションは)短期の予定でしたが、長期滞在の準備はできていました。それが宇宙飛行士の行いであり、それが有人宇宙飛行プログラムなのです」と答え、自分たちに支障はなく、政治からは切り離された状態にあることをアピールした。

ブッチとスニが称讃される一方、スターライナーの処遇にも注目が集まる。 同機は2014年、スペースXのクルードラゴンとともにNASAのCCP(商業乗組員輸送プログラム)に選定されたが、クルードラゴンがすでに10回のミッションを実施しているのに対し、スターライナーは今回の事案によって、その運用開始時期、さらには運用自体の有無が不透明になった。

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編集=安井克至

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