日本時間の3月11日、NASA(米航空宇宙局)の宇宙望遠鏡SPHEREx(スフィア・エックス)が、ヴァンデンバーグ宇宙軍基地(カリフォルニア州)からファルコン9ロケットによって打ち上げられ、予定軌道に無事投入された。
SPHERExは地球を南北に周回する極軌道(高度700km)から、全方向に拡がる宇宙を撮像して、かつてなく精巧な宇宙の立体地図を作成する。そのデータから銀河などの分布を測定することで、宇宙最大の謎とされる「インフレーション」の解明などに挑む。

インフレーションとは、極小の真空で発生した量子の「ゆらぎ」をきっかけに、真空のエネルギーが指数関数的(いわゆる倍々)に急膨張した現象のこと。その発生期間は「10のマイナス34乗」秒以下とされ、言い換えれば「1兆分の1」×「1兆分の1」×「10億分の1」秒以下となる。
インフレーションが真空のエネルギーの急膨張であるのに対し、それが熱エネルギーに相転移したことによって発生したのがビッグバンだ。インフレーションからビッグバンに至るわずかな瞬間に、極小の真空は「1兆倍×1兆倍」まで引き延ばされ、その結果として宇宙が誕生したとされる。インフレーション理論と呼ばれるこの仮説は、佐藤勝彦氏などによって1981年に提唱された。
SPHERExが製作する高精度な3D全天マップによって、私たちが観測し得る宇宙の大規模構造を明らかにすると同時に、宇宙の進化過程や今後の変容を検証する。こうした研究を突き詰めれば、インフレーションからビッグバンに至る1秒にも満たない瞬間に、どんな事象が発生したかを解き明かすカギが見つかる可能性がある。