テクノロジー

2025.03.25 10:30

においから「味覚」を伝える、ソニーが提案する新たなウェルビーイングの可能性

ソニーの嗅覚事業のプロジェクトリーダーである藤田修二理学博士にTensor Valveテクノロジーの展望を聞いた

においで味覚を伝える新しいデバイスの試作機を体験

今回のにおい展で、ソニーが初めて公開した「魔法の香りコップ」というデバイスもあった。愛嬌のあるにおい提示装置、NOS-DX1000のプロダクトデザインを担ったソニー・クリエイティブセンターが、このプロトタイプの制作にも本格的に関わっている。「ハンディサイズのにおい提示装置」と筆者は受けとめた。

本体の後側にあるスティック状のカプセルには、香りを封入した交換式カートリッジが2つ装填できる。紙コップに炭酸水を入れて、飲み口の横に位置するノズルから香り成分を噴霧すると、不思議と普通の炭酸水がハイボールやフルーツソーダをのような味になる。筆者も「ウイスキーのような炭酸水」を飲んだ。もちろん酔うことはないが、本物のウイスキーの豊かな香りが楽しめる。それもそのはずで、森田氏によるとカートリッジの中には良質なウイスキーが封入されているそうだ。お酒が苦手な方でも、ウイスキーの香りを利き比べを楽しみたくなるだろう。

ソニーが試作したハンディタイプの「におい提示装置」のプロトタイプ。本体のボタンを押すと先端のノズルからにおい成分を噴射する。炭酸水を飲みながら香りを鼻に受けると、ハイボールやフルーツソーダの味が感じられた
ソニーが試作したハンディタイプの「におい提示装置」のプロトタイプ。本体のボタンを押すと先端のノズルからにおい成分を噴射する。炭酸水を飲みながら香りを鼻に受けると、ハイボールやフルーツソーダの味が感じられた

「においによる味の疑似体験」は、藤田氏が目指してきたテンソルバルブ技術の1つの方向性だった。人はなぜ、においにより味覚を感じることができるのだろうか。脳神経科学の専門家であり、人の嗅覚に関するメカニズムを研究している、東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻の竹内春樹教授にコメントをいただいた。竹内氏も、ソニーがにおい展に展示した「魔法の香りコップ」が、人間の錯覚を利用したおもしろい体験であると認めている。

竹内氏は、人間がにおいを感じる経路には「オルソネーザル(たち香)」と「レトロネーザル(あと香)」の2つがあると説く。

「前者は鼻から直接嗅ぐ臭いで、後者は口に入れた食べ物の香りが鼻に抜けることで感じるものです。普段、食事では味覚だけでなくレトロネーザル嗅覚も組み合わせて『風味』として認識しています。そのため、我々はしばしば嗅覚からの情報を味覚と錯覚するのです」(竹内氏)

筆者も「魔法の香りコップ」のようなデバイスがエンターテインメント用途に限らず、例えば病気のためにお酒や糖分の高い飲み物を口にできなくなった方々のウェルビーイングを実現すると思う。実際に多くの人々の手に届く機会が来てほしい。

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編集=安井克至

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